31.君が傷つくことに僕が耐えられない
「俺は今日という日まで自分が殺傷事件を起こしていないことが不思議でたまらない」
そう思うだろ?
だって俺はこんなにもおまえが好きなのに。
「私もだ」
「や、おまえは現実に俺を何度か刺してるから。骨も折ってるから」
32.僕は君を手に入れたくて
「ならトイレットペーパーも一緒に買うからもう一声」
もともと買う予定だったくせに。
ギギナは内心毒づいた。内心、だ。
此処は家電売場三階。
周囲(主に主婦)の視線は熱弁を繰り広げる店員と赤毛の男性客に集まっていた。
「この機種、来週新しいのが発売でしょ?今売っとかないともう売れないよ?」
ここで値引けば主婦どもに勢いがつく。
セール期間でもないのに出欠サービス。不本意な理不尽値引きによる赤字必死。
首が飛ぶまではいかずとも、明日からタオル売場の販売員になるかもしれない三階家電売場責任者が『負けられない』と再度意気込んだ。その表情は必死にして悲壮。
それを見て至極愉しそうに微嗤んだ客―――つまりガユスは悪魔というか魔王。
絶対に勇者ではない。主婦は奴の手先だ。
(―――くだらない)
家電に向ける入手願望。
一掛けの値で構わないから、その心を少しでも自分に向けてくれればいいのにと思った。でも言わなかった。
もう一度地下食品売場で暇をつぶそうと歩き出したギギナの後方でもう何度目かも知れないゴングが鳴った。
「あ、コレ、自分たちで持って帰るから送料分は値引いてね」
持つのは貴様じゃないだろうが、と思った。言えなかった。
33.苦しいくらいに君を愛している
ギギナのキスは息苦しい。
「おまえと俺とじゃ肺活量が違いすぎるんだから手加減しろ」と言ったら「初だな」と言って笑われた
腹が立つから枕を投げるとギギナの顔面にクリティカルヒットした
ぼすん、と枕がシーツに落ちた音と一緒に銅色の瞳をぱちぱたしている顔が余りに間抜けで愛おしかったから
俺は腹を抱えて笑ってしまった
苦しいくらいに笑っていた
34.僕は君との約束を決して破らない
ガユスにキスが鬱陶しいと言われた。
「加減をしろ」と怒られたが、話をはぐらかして了承はしなかった。
口だけの了承になど意味がない。
どうせ加減など出きるはずもない。
次ガユスが何か言ってきてもまたはぐらかしてやろう。
また苦しいくらいにキスをしてやってもいい。
守れない約束など私はしない。
35.君の仕草を僕はすべて見ている
「だからギギナといると大型肉食獣の飼育を仮想どころか実体験できるんだよ。迷惑にも」
愛玩動物に大型猛獣の飼育。
互いに互いを自分のペットと思ってる貴方達。
「ジヴ?」
「ごちそうさま!」
「へ?もういいの?まだ半分も食べてないよ?」
「ダイエット。知ってるでしょ?」
いくら肉叉で刺して口に運んでもどうせ私の胃には一口だって入らない。
だったら食べなくたって一緒でしょう?
(write 07.9.19)