1.僕は少しでも君の中にいるのかな
家具が 咒式が 誇りが 闘争が 生き様が。
どれもこれも俺と無縁のものばかり。
「何処を見ている」
「おまえには見えないとこ」
不機嫌そうに歪んだ秀麗な眉。
それもおまえには見えないものなんだよな。
「貴様は、何も見なくて良い」
「じゃあ目隠しでもしてれば?」
「名案だな」
「変態」
ああそうか。
おまえの中に俺がいるんじゃなくて、俺の中におまえがいるんだ。
2.君からの贈り物は全て宝物
「あぁもうッ!」
赤い髪を掻き毟りながら今日も錬金術師は悲鳴を上げる。
「何で!いつも!おまえは!」
請求書ばっかり持ってくるんだ!!
持ってくるなら仕事にしろ!!
なにも赤いのは怒鳴る彼の跳ねた赤毛ばかりではない。
その原因を作った男といえば悲痛な叫びも右から左と受け流し、しかし真面目な顔で共同経営者の悲劇を眺める。
「…あーもーまた帳簿を下方修正…」
応接室に響く声も心なし篭っている。鼻を啜る音も聞きこえてくるので決して擬音語ではない。
続いて筆を走らせる音。
そこで漸く、これまでじっとガユスを眺めていたギギナが口を開いた。
「…貴様は」
「あぁッ?」
なんてガラの悪い声。
「私が領収書を持ってくる度いつも、大事そうにその冊子に記帳するのだな」
某日、エリダナ市内のある咒式事務所で爆裂音が響いたとか。
3.心の中で言い訳をして君を傷つけた
「全ての責任は私にある」
それがまたあの男を追い込むことはわかっていた。
言い訳をしないことと潔さは等号で結ばれないのに、何時になっても気付かない相手が愚かしい。理解しない相手が腹立たしい。
もう一人分の荷を背負うくらい、私にはどうとも無いことなのだと何故思わない。
我らは共に等しく罪人だ
口に出してそう言えないから 私は彼を傷つける。
心の中でしかそう言えないから 私はまた彼を傷つける。
今夜も彼の背を見送り己の背に担ぐのは 優しさの与え方を知らないから。
居た堪れないから全ては血の誇りのせいにした。
4.僕に馴染んだ君の感触が懐かしい
最後に罵りあったのはいつ?
最後に声を聞いたのはいつ?
あの日髪を梳いて口付けて 赤くなった頬を撫でてから
一体どれ程の時が経ったのだろう
初めて触れた時の感触はもう覚えていない
最後に触れた感触ですら既に遠い
電話を眺めるのが癖になったが呼び出された試しは無い
気付けば物欲しげに開閉している己の指
「―――…重症だ…」
昨日張られた頬がまだ熱い気がした
触れてもらった感触を確かめる為に触ったら
これではない、と白い掌が喚いた。
5.君は時々何を考えているのかわからなくて
ギギナみたいな単細胞の考えていることなんかお見通しだ。
家具と戦闘と誇りと食い物。
それに時と場所を照らし合わせれば直ぐにわかる。
だからどうして俺とギギナがこんな鬱陶しい関係になってるのか。
それもこの応用で簡単に割り出せ至極簡単。
そう、相手は、ギギナは、こんなにもわかりやすい奴なのに。
「女に飽きたからって男抱いて楽しいの?」
俺がそう言う度におまえがそんな顔する理由も手に取るようにわかるのに。
「…わからないなら、別に良い」
全然良さそうじゃないのにそんなことを言う。
それがおまえの臆病な強がりだってことも、俺にはちゃんとわかるのに。
俺はこんなにもちゃんとおまえの事分かってるのに。
なのに。なのに。なのにどうして。
「…あ、そ」
想うだけでちっとも俺の事わかってくれないおまえが
俺は時々わからないよ。
(write 06.6.19)