16.君の心はとても脆いからいつも心配なんだ
「ガユス」
「―――あ?」
「湯」
「あ?‥‥‥‥あ゛ぁ゛っ!??」
ばたばたと慌しい足音が、事務所の床に積もった埃を舞い上がらせた。
喪失に正面から向き合えないガユスの心はとても弱い。
「蒸気蒸気蒸気蒸気ーッ!!‥って熱ッ!?ぎゃあー、陶杯割れたッ!!」
「‥‥騒がしいぞ、眼鏡の塵」
そんな貴様の声が聞けなくなる時を想像すら出来ない己の心はきっと朧な輪郭で、
触れることも出来ずに霧散するだけ。
17.君の恋を素直に応援できない僕
風邪を引いた。
そんな俺の身を案じた(あくまで本人談)相棒は、自主的判断で共同経営事務所を休業し。
「敷布を取り替えるから、そこをどけ」
ストーキングの影も己が一部として我が物顔、許可無く勝手に我が家に上がりこみ。
「りんごとみかんとバナナ、どれが好みだ」
自称・看病を実行中。
「次は窓拭きか」
「やめろ、おまえがやったら枠だけになる‥‥ってなに今の躊躇い皆無の破砕音!?」
「ガユス、空気の入れ替えだ」
「帰れッ!その風通しの良くなった穴から飛び出て今すぐ別次元に帰れッ!」
風邪を引いた。
そんな俺の身を案じた、以下略。
ここで現状と関係ないよううで関係ある話。
某ライバル事務所の二番部隊の隊長は、お隣部隊の女隊長に惚れている。
「時にガユスよ」
青臭さの残る青年の、無謀・無理・無茶、淡く哀れなその想い。
あれはいい。俺でも思わず二割の確率で応援したくなってしまう程の、必死さを含む純粋で盲目な恋だ。
「いいかげん、堕ちたか?」
「土下座するから今すぐここから失せてください」
でもごめん。
おまえの恋は、何故だか素直に応援してやれない。
18.僕の存在が君の重荷になるのなら
終わらない借金
増え続ける家具
毎度毎度、無意味な戦闘
彷徨い飽きた生死の淵
糞みたいな人生
「貴様はそれら全てが私のせいだと言う」
「寸分の狂いも無く事実だろうが」
「ならば‥‥っ、」
天井と一緒に視界に映るギギナの顔には普段の傲慢さなど欠片も無く、ただ痛みを堪える表情だけ。
自分の言葉でそんな顔してたらキリがない。だからおまえは馬鹿なんだ。
敗北なんて俺に全部任せていればいいのに。
苦しげな赤い唇から零れた問いは、窓から吹き込んだ風が攫って俺の耳には届かなかった。
けれど視界を塞ぐものは無いため、口唇が描いた形はしかと俺の目に焼き付いた。
だから俺は笑った。
「当たり前だろ」
そうだよ、おまえがここにいるから 俺はいつもその気になるんだ
19.愛なんてないと想っていたけど
「こんなところにいたのか」
髪に負けない位、朱に染まった小さい耳を隠そうともせず、
あの男は薄暗い路地でしゃがみ込んでいた。
20.君との出会いは僕のすべてを変えてしまった
『--------------------偶に触れて、充電するの』
戯れに手を伸ばす。
「‥‥唐突に何ですか、ギギナさん?」
「充電中」
「卑猥な中年のオッサンかおまえ」
触れた赤毛は昨日よりも柔らかな感触だった。
(write 06.10.31)