『短冊を飾ろう! 前編』
短冊に願い事を書いて笹に吊るすと叶うらしい。
「ほら、お前の分!」
「なんだその細い紙切れは?」
「短冊」
「“たんざく”?」
「知らないのか?これに願い事書いて吊るすと叶うんだよ」
「そんなわけないだろう、馬鹿」
「馬鹿ってなんだよ」
「馬鹿は馬鹿だ」
「二回も言うな」
「それに書いたところで叶うような願い事など無い」
「無くても書け」
「無いのにどうやって書くのだ?」
「いいから」
「だから」
「短冊で叶わないなら俺が叶えてやるから」
『短冊を飾ろう! 後編』
短冊に願い事を書いたので笹に吊そう。
「本当に吊るさないのか?短冊」
「あぁ、いい」
「まぁ…いいならいいけど」
「有難う」
「…ぃ…いや、別に…」
「…星が綺麗だな」
「…そうだな」
「…金平糖みたいとか言うなよ」
「んなこと言わねえっての」
「言いそうだ」
「言わねぇ」
「言いそう」
「煩い」
「……んっ…」
『ひらひら』
「お前その格好どうにかしろよ」
「人のことをとやかく言う前に、まず自分の黒ずくめこそどうにかするべきだと気づけ」
「俺のことはいいんだよ。お前のそのひらひらどうにかしろって」
「何でだ」
「いいから」
「理由を言え。理由を」
「……」
「リロイ?」
「………もう、いい」
生足魅惑のマーメイド。
『秋だから』
窓から吹き込む風。
それが扉からも吹き込んだと思えば、先刻
買出しと称して一人出かけた相棒が戻ってきた。
「…遅かったな」
どこほっつき歩いてたんだよ。
しかし俺への返事もそこそこに、
宿の机の上に置いた紙袋をがさがさと漁っている。
そしてそこから出てきたのは、ポットとティーカップが二客。
一昨日より昨日。
昨日より今日、と日毎涼しくなってきている。
まだ暑かった頃、相棒はアイスティーを大層気に入ったようでそればかり飲んでいた。
「今日は冷たいのじゃないのか?」
何の気なしに聞けば思いもよらぬ返答。
「偶にはおまえの気分を味わうのも良いかと思ってな」
覗く袋の中には珈琲豆と砂糖にミルク。
豆挽機まで入っている。
「……おまえ…」
震える声に続く言葉を待つ相棒。
その表情が心なし、いや間違いなくにこやかなのは
良いのだが、言うべきことは言わなければならない。
「これ、どうやって手に入れた?」
「なに?」
「こんなに買うほど金無かっただろ」
「あぁ、そんなことか。それなら先程道で知り合った御仁が」
「知らない奴から物貰うな!」
食欲の秋、読書の秋、人情の秋。
誘拐未遂事件も、まぁ秋だから。
『talk about ...』
「色白」
「黒い」
「飲むなら紅茶が一番らしい」
「甘いコーヒーが好き」
「ひらひらと構造が不明な服着やがって」
「一年中黒皮レジャージャケットで暑そうだ」
「今後の課題は残さず最後まで」
「私が作った料理は全部残さず食べているな」
「開いた口はそのまんま」
「それは“開いた口が塞がらない”ではないのか?」
(05.7〜05.10)