『シークレットスマイリー』
笑顔、笑顔、笑顔―――と。
「……何をしている」
「や、気にするな」
「他人に顔を撫で回されて気にしないでいられる者がいると思うか?」
「気合で。あと“他人”ってのは訂正しろ」
「……只の一般論だろうが」
何を気にしてるんだと呆れた顔。
「違うんだよ、それじゃないんだよ」
「何がだ」
怪訝な顔でもなくってさ。
その後いろいろ踏ん張ったんだがやっぱり駄目で、悲哀を伴って
相棒に背を向けた。
そして、くすり、と動いた空気は広い背中だけが知ってる笑顔。
『雪狼』
ざくざくと雪を掘る音だけが暗い中響いている。
「遭難したらどうしてくれるってんだ!」
「もとより道など覚えていないのだから大差ないだろう」
「煩いぞお前」
「まぁ何にしろ黒ずくめで異質な男は不審人物として通報してもらえるから安心しろ」
「そのときはお前、そっから出てくるなよ」
「白いから、か?」
「違う」
「では何…あ、リロ」
「ぅおおッ!??」
ずぼり、と。
何かをぶち抜いたような、しかしある種子気味よい音。
それと同時に私の見る視界は揺れる景色から一面の白へと移転した。
「これではいかに黒くても見つけてもらえんかもしれんな」
「ならそれまで休むだけだ」
「凍死するぞ」
「冬眠だろ」
「熊かお前は」
「狼で」
『節分』
「豆を食べる」
「豆を?」
「ああ、豆だ」
「乾燥大豆では腹はふくれないだろう。一体どれだけ食う気だ?」
「馬鹿だなお前は。これは歳の数だけ食うっていう風習だから食事じゃないんだよ」
「ほう、歳の数だけ」
「そう、歳の数だけ。ほら、お前も食えよ」
「……」
「どうした?」
「………5000粒」
『真実の』
「リロイ」
大嫌い、そう言ってみようと思った。
いつも主導権を握るこの男が困る姿を見てみたかったから。
「ん?なんだ?」
だって今日は嘘も許される特別な日。
「……………好きだ……」
なのに衝いて出たのは素直な言葉。
だってそんな顔して振り返るから。
嘘でも嫌いと言えなくなった。
「俺も」
今日は嘘すら許される特別な日。
しかし抱き寄せる腕の温かさも貴方の笑顔にも嘘は無い。
(05.11〜06.2、05.4.1)