『愛想と愛情 side ガユス』
「ガユス、誰それ構わずその不謹慎な笑顔を振り撒くのを止めろ。不愉快極まりない」
「何でギギナが不愉快極まりなく感じるんだよ?」
きょとんとした表情で問えばギギナはぐっと息を詰める。
でも俺のこの表情は虚像。
本当は分かってる。
社交辞令の笑顔ですら己以外の誰かに向いていることが気に食わない。
そんな狂おしいまでの嫉妬も。
戦士の気位の高さからそうやすやすと想いを言葉に出来ない葛藤も。
お前はドラッケンの気高い誇りを捨てられない。
同時に地を這うほどに醜い嫉妬と異常なまでの独占欲も捨てられない。
その戦士の誇りとそれを邪魔する地を這う感情がお前の中で渦巻く限り。
お前は俺の前から決して消えない。
だから俺がお前にくれてやるのは小生意気な嗤みだけ。
「ギギナ、愛想と愛情は別物だぞ?」
―――伝わらないであろう想いを乗せて。
『愛想と愛情 side ギギナ』
「ガユス、誰それ構わずその不謹慎な笑顔を振り撒くのを止めろ。不愉快極まりない」
「何でギギナが不愉快極まりなく感じるんだよ?」
自分は何も知りません。
そう物語る作り物のその顔が疎ましい。
意志の宿らぬ意思を他の者共と等しく与えられるたびに、目の前の獲物が未だ自分の物でないような錯覚を覚えるから。
告げられるのなら告げてしまいたい。
しかし小生意気に見上げる青の瞳が表情とは裏腹の色を宿すのを認めてしまえば
息が詰まるほどの何かを己の中に自覚する。
想いがあれども伝える手段を違えれば決して伝わらない。
その誤りが為に貴様はこれまで何度悔やんできた。
そしてこの男は今日も本心を伝えぬ作り物の嗤みを与える。
「ギギナ、愛想と愛情は別物だぞ?」
―――それを理解していないのは貴様のほうだ。
『短冊を飾ろう! 前編』
短冊に願い事を書いて笹に吊るすと叶うらしい。
「願い事など軟弱だ」
「ちゃっかり短冊持ってるヤツの台詞じゃねぇな、それ」
「先人達の築いた文化は素晴らしいものだと思う」
「前後で言ってることが矛盾してるぞ」
「矛盾も確率論」
「その確率論に則ると、阿呆なギギナ君の願いは『愛しのヒルルカちゃんに
立派なお婿さんが見つかりますように』」
「やはり所詮は眼鏡。所詮その程度の思考。詰めが甘いな」
「じゃあなんなんだよ」
「『ヒルルカに弟が出来ますように』」
「…何その願い」
「頑張れガユス、期待している」
「無理」
『短冊を飾ろう! 後編』
月の輝く夜道に長く伸びるのは二人分の影。
短冊に願い事を書いたので笹に吊そう。
「一番高いところが良いな。しかと叶いそうだ」
「…あのさ」
「なんだ」
「…マジにそれ吊るす気か?」
「応」
「一つ聞いていい?」
「だからなんだ」
「何で弟なの」
「『一姫二太郎』」
「どこでそんな言葉覚えてくるんだ?」
「教えて欲しいのか?」
「いらん。てかお前本気でそれ書いたのか?ちょっと見せろって」
「急に飛び掛ってくるな腰痛眼鏡」
「……」
「…なんだ」
「…意外。お前字も綺麗なんだな」
「……」
「…何?」
「…“も”とは?」
「……さぁ」
(05.6〜05.7)