獲物ではなく敵を
殺戮ではなく闘争を 見つけた



翅無しに混じって天翅と闘う日々は歓喜に満ちていた。
ただ屠られるのを待つ獲物ではなく、闘志を纏いて挑んでくる敵。強者。
刃を振るう度、天翅を屠る度、明確に線引かれる生死と勝敗。
燻っていた魂が呼び起こされる感覚は甘く美しい。
幼きあの日に夢にまで見た、戦慄の響きであった。

勝ち続けた。
どんな屈強な天翅に挑まれても、名だたる戦翅が相手になっても、負けなかった。
最強の守護者と謳われたこの地位は、やはり偽りではなかった。
勝ち続けたのだから。

しかしやはり何もごとにも終わりは来る。

私は捕らわれアトランディアに連れ戻された。
負けたのだ。




『君の処刑を命じられたよ』


楔を打ち込まれた翅が軋む中、愛しい翅音が響く。
長らく聞いていなかった響きは多少沈み窶れていたが、とても心地よくこの身に届いた。


『そうか。ならば殺せ』


そう、殺すのが正しい。
敗者に与えられるのはそれだ。
戦いの最中、勝者である間。己が敗者に与えてきたこと。
そう、私は負けたのだから。


『どうして?』


しかし返って来たのは刃ではなく、戸惑いと疑問の滲む翅音。

変わらないな、と思う。

幼き日、よくこの声にせがまれ答えを示した。
純粋無垢に、平和と安らぎを司る聖天翅。汚れを知らない天翅はその一々に感嘆と感歎の翅音を響かせる。
今もそうだ。

戦いに敗れれば、死。

簡単なことだ。
しかし戦を知らぬこの天翅は、未だその構図が理解できぬのだろう。優しい子だから。
だから、己は守護者となると決めたのだ。


『どうして?』


答えを請う翅音が止まない。
それに答える為、最後と思い面を上げる。
迎えてくれるのは遠い日々と変わらぬ期待と希望を孕んだ澄んだ深い空色の瞳。

――の筈、だった。


『どうして?』


‥‥違う。

何故?
何故そんな瞳をする?
何故そんな顔をしている?

そんな虚ろな蒼じゃない。
そんな濁った空じゃない。
そんな顔をさせたいのでは、ない。

おかしい、と思う。己が。
彼を前に動揺や混乱といったような、無様な姿は曝したことがなかった。
彼の疑問には何でも、噛み砕いて答えてやれるだけの余裕もあったのに今はそれがない。


『どうして?』


繰り返されるその問いは、己にとっても疑問でもあった。
相手の考えが、わからない。何故。
しかし解答をくれる者などいない。

繰り返される言葉に答えれぬまま事態は進む。


『あの翅無しを助けたら、私のところへ戻ってきてくれるかい?』


――意味を、分かっているのだろうか?

翅無しを助ける。
しかもただの翅無しではない。
敵である私と繋がりのある翅無しだ。
それを助ける。
天翅を裏切る、と。

‥‥裏切る?

翅無しを助けることが何故裏切りになる?
相手はただの餌。歯牙にかける必要すらない。
私に手を貸すことになるから?
何故私に手を貸すと裏切りになる?

私は天翅に戦いを挑んだだけ。

いつもの天翅を騒がせる調子で、思いつきで、強い者と戦ってみただけ。
翅無しの群れに混じって天翅と戦っただけ。
そして勝ち負けを付け、勝者と敗者に線引きした。
線引き。
何を以って?
生と、死。
死。

ああ、そうだ
誰が見ても



『――ねぇ』




同族殺しの私は、裏切り者だ。







neverending endroll
僕はこの余韻から未だ抜け出せないでいる