守護天翅
大いなる翅音
アトランディアの絶対守護者
それら呼称は紛うことなき誉れであった
あの日から遠く離れた今、己は望んだ高みに到達していた。
それに喜びがない筈がない。
だが実際。
賞賛が響けば響くほどに印象付けられる『圧倒』の意味は薄っぺらく、持てる力を余して退屈しているのが現状だった。
翅無しを狩るのは楽しい。
強大な力を持って狩り穫るそれは所謂遊び、手慣れたものだ。
相手の意志などかけらも汲まない一方通行、示威とも取れる幼さの残る行為。
確かに力の誇示にはなるだろう。天翅同士で数を競うことも悪くない。
そう、翅無しを狩るのは楽しい。
しかし所詮は餌狩り。
あの日、生命の樹の根で感じた神経が擦り切れ心震えるような「戦い」の残響。
翅無し狩りには、あの愉悦が存在しなかった。
ある日、一匹の翅無しと言葉を交わした。
雌のくせにやたらと騒ぐ、酷く耳障りな音を立てる翅無しだった。
そして、何度弾いてもまた起き上がり刃を向けてくる、しつこい餌だった。
丈夫な筋力があるわけでもないし、強力な魔術を布くわけでもない。
脆弱な肉体と非力な能力だけで向かってくるのだ。
そんなちっぽけな装備で何故こうも恐れを知らずに挑んでくるのか。
数で攻めれば勝てると思ったか。馬鹿らしい。勝敗もなにも無い。
自分は「狩り」には来たが、「戦い」には来ていないのだ。
けれど翅無しから向けられた視線には純粋な殺意と憎悪が灯っていた。
その裏側には絶対の恐怖。
殺戮。強大。力。絶対。死の予感。
対等で無い相手に向けるその視線。
それはあの日の刺激に似た感触。
神々と同じ憎しみの残響。
それは誰に向けている?
その視線の先には誰がいる?
恐れるべき強者は一体何処に?
己を更なる高みに引き上げてくれる戦いの相手は何処に?
翅無しはその答えを知っているのだろうか?
その相手を見つけているのだろうか?
知りたい。
己もその者と相まみえれたならば、きっと。
戦う意味を問えば震える声で答えが返った。
「‥‥堕天翅の手から人類を守る為」
退屈していた。
翅無しの脆弱さを物足りなく思っていた。
ぬるま湯に揺蕩う感触に飽き飽きしていた。
どうすれば面白味が出るものかと、いつも思っていた。
もう少手応えのある者がいればいいのにと、いつでも思っていた。
『堕天翅?』
翅を持たぬ弱き者は翅を持つ強き者を仰ぎ見て、声高々に吠え立てた。
「貴様等、殺戮種だッ!」
‥‥そうだ。
強い生き物なら、己は最初から知っていたではないか。
それが全ての答えだった。
それだけだった。
気づかなければ良かったことに気づかなければ良かったと、気づかなかった。
challenge
温水プールの何が気に入らなかったのだろう?