『にもつ』 ※日本国ED・新婚旅行の準備中(笑)
「黒りーん、鞄これじゃちっちゃいかなぁー?」
「でか過ぎだろ。何泊する気だ」
「黒様の荷物の少なさが異常なんだと思うー」
「必要なもんは揃ってる」
「あーあ、モコナがいたときは楽チンだったのにー」
「なんでも食ってやがったからな」
「‥懐かしい、ね」
「‥ああ」
「‥‥あのね、黒たん」
「なんだ」
「やっぱりこの鞄ぐらいの大きさが、」
「だから何泊する気だおまえは」
「だってぇー」
今とこの先、この手に下げる荷物は
どんなに大きな鞄であっても詰め切れないでしょ?
『ことだま』
「よかったねぇ、日本国に帰ってこれてー」
相変わらず笑顔のオレ
相変わらず眉間に皺の君
そしてここは綺麗な空の、彼の祖国
陽射しは確かに柔らかなのに 眼に沁みた
香る風はとても優しいのに 鼻の奥がつんとした
「綺麗な国だねー」
寒くなんか無いのに 何故か震えるオレの声
「じゃあオレ、もう行くね?」
さようならは言わないよ
だって君にまた会うことなど無いと知ってるから
ただ叶うなら一回ぐらい、真正面から君の名前を呼んでみたかった
「‥‥ばいばい」
そうしてオレは最後まで 曖昧な言葉で中途半端に背を向けた。
『100年の』
今までが猫被りだったのなんざ、わかり切っていた。
「黒たん、あれ食べよー」
被る、というより、こいつそのもの猫だろう。
「黒様、あのお店が可愛いから入ってみようよー」
今まで堪えていた分だけ型が外れた、という限度を遥かに凌駕。
空けるだけ空けて塞ぎ忘れた螺旋穴から理性を塗り損ねた本能・煩悩が駄々漏れている。
「黒むー、オレ疲れたからあそこのベンチでちょっと休憩しよぅー」
つまり、かなりの我侭振り。
「なぁに?」
そして厄介なことに人の顔色を読み取るのが上手い。
兄弟で例えるならば末弟気質。
「‥‥その次は何処に行きてぇんだ?」
「この本に載ってる甘味処、お勧め星みっつのお店に行きまーす。氷菓子が美味しいんだって!」
「‥‥甘いもんか‥‥」
「嫌な顔禁止」
眉間に白い指が突き立てられる。
頭一つ分の身長差。
俺もこいつも背丈が低いわけじゃない。
だから己を見上げる挑戦的な青い瞳を覗けるのは。
「今日も一日、オレに付き合ってくれる約束でしょ?」
極度の我侭振りだって、
それがこいつと知ってしまえば可愛さ余って憎さ丸飲み。
対処法なんざ浮かびゃあしない。
『白詰草』
花が皆から愛でられるのは いつか枯れてしまうからだと思うんだ
短い命を精いっぱい生きる、ってやつ
それが正しいならば 怠惰に続くオレの命に 価値なんて無い
でもね オレの魔力には価値があるんだ
変な話だよね
価値の無いオレが持つものに 価値があるなんて
所有者よりも 所有物が重要だなんて
最も
君にこんな話をしたところで 到底、理解出来ないだろうけど
だから、さ
―――君も、オレのものになって?
『科学と奇跡と悲劇は台所から誕生する』
『ぷう!モコナと!』
『サクラの!』
『『30秒クッキング〜☆』』
『これはモコナとサクラの二人であっという間の30秒でお料理しちゃう番組なの!』
『美味しいって言ってもらえるように私頑張るね!!それじゃあモコちゃん、今日のメニューはなぁに?』
『今日の献立は「納豆deアイス」!!』
『わぁ、きっと凄い料理なのね!だって出来上がりが予想できないもの!』
『モコナにまっかせて!じゃあサクラ、次は作り方と材料の説明だよ!』
『うん!材料は納豆一パックとアイス一カップの二つだけ!』
『そして二つをボールに入れてひたすらひたすら混ぜるだけ!』
『『そしたら納豆とアイスの奇跡のコラボレーションで和風伸びるアイスの出来上がり☆』』
『ふっ‥またつまらぬものを作ってしまった‥』
『ではさっそく今から第二のトルコアイスをゲストの小狼君に試食してもらいます!』
『えぇ!?ちょ、まっ、いや、これっ、姫‥!』
ガーガー―――しばらくおまちください―――
『ああっモコちゃん、もうこんな時間!明日はどんな料理を作るかというと!』
『それは見てのお楽しみ!モコナとサクラの30秒クッキング、次回も素敵料理にドッキドキ☆』
「‥‥」
「‥‥」
「だって」
「だってじゃねぇよ」
「あれなら黒たんだってアイス食べれるよ。だって腐ったお豆が入ってるもの」
「腐った言うな。んでその台詞、逆にしてそっくりお前に返してやる」
「相性って大事だと思う。いくら美味しいもの同士であってもマンゴープリンとカレーライスの奇跡の共演内容は殺し合いだったもの」
「やったのか」
「生卵キライ」
※カレーに黄身
【蛇足】
「どうしよう黒ぴー、オレ、重要な事に気付いたー!」
「あ?」
「納豆deアイス原理ってつまり、黒様とオレの子どもであっても可愛いとは限「いろんな意味で頭冷やして来い」
『広がる空はどこまで行っても君と僕の舞台だった』
青いお空はファイの色
もくもく真っ白 おいしそうなわたあめ雲もファイの色
黒い夜空は黒鋼の色
浮かんだまん丸真っ赤なお月さまも黒鋼の色
「ほら、ファイと黒鋼はいっつも同じ場所にいるよ」
「うん、そうだねー」
くふん、と自分の主張に誇らしげに胸を張る白い生き物に、
白の魔術師は笑いかけた。
「でもさー、モコナー」
「なぁに、ファイ?」
「夜空はいつも変わらず真っ暗だけどー」
昼間の空は曇って陰って灰色で 青色をしてないときもあるよ
「それは黒鋼がファイと一緒にいてくれてるときの色だよ」
「え?」
ふわふわ白はファイの色
ばさばさ黒は黒鋼の色
二つ混ざれば 元気が足りない青空に夜空がそっと寄り添う時の色
「ね?」
くふん、と自分の主張に誇らしげに胸を張る白い生き物は、
雨が降りそうな青空の代わりに 笑ってあげることにした。
(06.9.9)