『はじまりは』
窓辺に肘をついて何をするでもなく、ぼう、と外を眺めてた。
部屋の中と外の温度差で、隔てる窓に結露し浮き出た水が硝子に膜を張る。
指でなぞるとそれは雫になった。
「なにを呆けている」
気配もさせないくせに声だけは聞こえる。
その度に毎度びくつく心臓が可哀相で、そしてその原因に腹が立つから予備動作もなしにがばりと振り向いた。
ら、何故か屈んでいたギギナの鼻梁に俺の唇が触れていた。
衝撃事態に体験者は盛大に品無く叫ぶゼロコンマ三秒前。
でもそれより僅か先に目に入った男の表情があんまりで。
そして男は何も言わずに俺に陶杯を押し付けるとそそくさとその場を後にした。
外は寒いけど部屋の中はやはり温かく、外に出るのも億劫だ。
『節分』
「今日は節分だから日頃の感謝を込めて力一杯豆を投げつける日。鬼役のギギナに向かって俺が」
「私は逆が良い」
「そんなことしたら俺に穴が開くだろ、馬鹿」
「良かったなガユス、これで漸く貴様も男前があがる」
「俺は中身で勝負するから外見は関係ないの。あと鰯の頭を串刺しにして玄関に飾る日でもある」
「生首か。悪趣味だな」
「伝統文化を生々しい現実で否定するな」
「で、その生首は飾らないのか?」
「ギギナが晩飯の鰯を生首残さず食ったから、無い」
『新婚シリーズT 味噌汁の具編』
「薄揚げを入れろ」
「豆腐が入ってるだろ」
「絹ごしは邪道だ」
「木綿の歯応えは今日の夕食には合わないの」
「海草も入れるな」
「わかめのミネラルは人体に必要不可欠だろ」
「長葱も抜け」
「野菜食え」
「あの滑った茸が良い。椎茸は入れるな」
「はいはい、わかったから残さず食え」
「今日の汁は好かぬ」
「………」
『新婚シリーズU 早速倦怠期編』
「……」
「……」
「…ガ、」
「何」
「……」
「用が無いなら呼ぶな」
「…よ、用はある…のだが」
「凄いよなぁ、ギギナ?」
「…なっ、なんだ?」
「最近の食事は湯を入れて3分で出来るらしいぞ」
「……よ、4分のものもあ「残り1分だな。ああ、割り箸準備しとけよギギナ」
『眼力』
「そんなに俺の事が好き?」
「何を言っている」
「さっきから俺の事見つめ過ぎ」
「目を見ていただけだ」
「そういうのを見つめてるって言うんだってさ」
するとギギナは睦言でも聞いたように目を細め、俺の耳元で甘く囁いた。
「誰がそんな事を言っていた?」
「イーギー」
(05.12〜06.4)