『なぁ、おまえの本名、教えてくれないか?』
人の領域に滅多に踏み込もうとしないあいつ
それが珍しくも食い下がるものだから、根負けしたのはこれも珍しくも自分の方
『どういう意味なんだ?』
そんなもの、知らない
最後にその名をなぞった声が絶叫だったことしか覚えていない
『え、何? おれの?』
興味あるの?などと嬉しそうなあいつ
不公平、と言うだけの俺
『じゃ、言わない』
唖然となった俺を見て、あいつはとても楽しそうに笑った
面白い悪戯を思いついたような、酷く幼い顔だった
『明日になったら、教えてやるよ』
だから俺は今日も夜明けを待っている。
Who are you?
『Sレベル秘匿義務』
あっ!こいつ、おれが殴り飛ばしたのまだ根に持ってやがる。意外としつこい。
『ソラン』
異国の発音。
やっぱりというか聞き取れない。二度や三度じゃ無理だなこれは。
せめて意味だけでも知っておきたかったのに。
『あんたは?』
教えたげない。
だって、おれが聞き取れてないのに、おまえばっかりは狡いじゃないか。
『‥‥不公平だ』
――あ?ああそうなんだ?
おまえの中で 「おまえ」 と 「おれ」 は 「同等」 だったんだ?
『明日だな?』
うん。
明日、会いにいくよ。
君を連れて
『セツナ オカエリ!』
「ハロ、部屋に戻れ」
『オカエリ!オカエリ!』
「速く」
『ミンナ オカエリ!』
「ハロ」
『ロックオ「言うなッ!!」
NOTの信号を受けた回線を電気が走る
チカチカと点滅するダイオード
自分と同じ色の瞳
少年の背後に佇む人影を認識したそれは彼をこう呼ぶ
『ロックオン オカエリ!』
これはもう二度と彼を彼たる名で呼ばない
声が枯れる程に否定しても絶叫しても泣き叫んでも、もう呼ばない
呼べないのだ
『セツナ ドウシター?』
刹那を心配するその音声
点滅するダイオードは自分の瞳と同じ色
だから彼の喪失を責めてる様にしか聞こえない。
タワー
『あんたは、死ぬな』
だからおれは今日も まだ死なない。
錆びた炭素を吐く行為