01.君が傍にいるだけでいい。 

「何か欲しいものはないか」
「必要なものがあるなら言え」

刹那がロックオンに。
ティエリアがアレルヤに。
食後で寛ぐ各々兄たちに、二人は真剣な面持ちで尋ねてみた。
各々、読書と一人モノポリーを楽しんでいたところ。パチパチと瞬きする瞳は、翡翠・翡翠・銀の三つ。

「何だぁ?いきなり」
「どうして突然そんなこと‥」

当然の反応だ。
本当に前置き無しで「欲しいものは何だ」と尋ねられたのだ、訝しむのが普通だろう。だって聞いてきたのはこの弟二人。
質問を疑問で返され、うっ、と言葉に詰まる。
動揺した刹那。
眼鏡が光り表情が伺えないティエリア。
共通点は、無言。

だからアレルヤは思案する。
言いたいことはいつもいつでも、スリッパと共に直球でぶつけるこの弟が口を噤む様など初めて見た。アレルヤのプリンを断り無く勝手に食べた時でさえ、その痕跡を隠すどころか悪びれも無く本人の目の前で喰い散らかすあの豪傑な弟のこんな殊勝な姿。

(ティエリア、風邪でも引いたのかな?)
(刹那め、さてはまーた猫拾ってきたな?)

対してロックオンは顔を顰める。
刹那がそわそわするのはよくあることだ。自分に不利・不都合があれば、直ぐにだんまり決め込み篭城策。そこが可愛いとは常々思うが、躾の意味では別問題だ。
刹那が物を強請ることは殆どない。だから多分また猫だ。欲しいものを聞き出しその交換条件で、とでも言う気だろうか。余計な知恵が付いてきている、さてはティエリアか。これは少々予想外、共謀するならアレルヤだと思っていたのに。

呆れたロックオンが溜息と共に口を開く。お咎めの為だ。
アレルヤは未だどのような態度に出ればいいのか決めかねているらしい。何故か時計を見ながら「薬局ってもう閉まってるかな‥」と呟いているが。
しかしそのどちらよりも、刹那が早かった。

「‥‥誕生日」

ぼそり、と呟かれた単語。
え? と、聞き返したのはロックオン。
アレルヤだってポカンとしている。
ティエリアは否定しない。

「たんじょうび?」

呆気にとられたロックオンは、確認のように復唱する。
けれど刹那はむっつりと口を噤んで無言を貫く。二度は言わない、と頑なな態度。
妙な緊迫感と腑抜けた空気が充満する。
焦れたティエリアが宣った。


「二人分、まとめて祝ってやると言っているんだ」


だからさっさと、欲しいものを言え。

腕を組んでふんぞり返ったのは三男。
睨みつけて返事を待つのは四男。
ぽかん、と口を開け、脳味噌が働かないのは長男と次男だ。

(――ああ、そういえば)

2月27日と3月3日
自分達は、妙に誕生日が近いのだった。

顔を見合わせる兄二人。苦笑した。
気持ちは同じ。

「刹那、ありがとうな」

ぽん、と黒髪を撫でた大きな手。
柔らかい笑顔。


「でも、気持ちだけで十分だ」
01. 君が傍にいるだけでいい。
長男・次男の誕生日を祝い隊
2008.2.13  わたぐも