おかえり、ただいま
「──何故、避けない」
刃を振り下ろされても微動だにしなかった男を、凍えるような蒼い瞳が見上げている。
「殺すよ?死ぬよ?冗談なんかじゃ無い。本気だ。あの人が君を殺せって言ったんだ。オレは君を殺せる」
肩に触れる寸前の所で止められた刃。それを黒鋼は無言で握る。
刀身を伝う血に慌てたファイは身を引こうとして──思い止まる。
出来ない。今動けば、黒鋼の指が落ちてしまう。
混乱と恐慌に縛られ、簡単に動けなくなってしまった。
「だろうな」
「だったら…!」
悲鳴に近い叫び。
意味を考える隙もなく、ただ疑問だけをぶつけた。
刀身から離れた大きな手が、血も拭わずにファイの手首を掴む。
「だが、死ななかった」
からん、と音を立てたのは滑り落ちた刃だったのか、それとも崩れ落ちたオレの膝だったのか
出会ったときはオレが立ってて君が座ってたのに、今は全く逆の姿勢
ただ違うのは、君のその右腕が剣では無くて オレの手を掴んでいること
同じことをさせても君はこうもまるでオレと違う
逃げ場何て無い
逃げても距離が広がらない
常に対峙を余儀なくされる
『オレ、死ね無いもん』
既にオレの一部になってた君を、オレが殺せる筈が無かったんだ
だから
オレは
君には一生敵わないのだろうと諦めに似た表情で笑ってしまった
それは「諦め」 という、人らしい感情を孕んだ笑い方。
ただし「似ている」だけで、諦めなど毛頭孕まぬ笑い方。
君変10題 没ネタその1。(1?)
殺伐すぎる二人ですがこれタイトル通り「おかえり」と「ただいま」がテーマなんです、とか告白したら私が抹殺されそうです。
2006.11.27 わたぐも