『about my... side ギギナ』
眼鏡について知っていることを言え、と?
そうだな、まず見た目が貧弱だ。
男にしては細い腰回りが抱きやすい部類に入…なんだ眼鏡、殴るな。私は戦闘時の話をしている。
だが貴様がそんなにも言うならば寝所でも抱えやすい、と述べておいてやる、ありがたく思え。
あとは始終顔色が悪い。
一人で体調管理も出来ん愚か者は後ほど躾ることにする。
…寝不足?知らぬ、それも自己責任だ。
気に入らぬことがあれば料理に没頭して紛らわそうとする癖がある。
下らぬループ思考に次ぐあの男の女々しい趣味だな。
まあ趣味だと言うだけあって腕の方はまぁまぁだ。悪くは無い。
『about my... side ガユス』
…ギギナについて語れ…?
そうか、つまり愚痴!それならちょっと聞いてくれ!!
声を大にして言うとあの馬鹿ドラッケン、日中夜の家具屋・家具市では飽きたらず遂に「半期に一度 満足な暮らしの為の家具大集結」 とかいう百貨店主催の催し物にまで行きやがったんだよ!
もしかして開店前から主婦に混じって百貨店入口に並んだのかなー、とか思うと少し可笑しいしなんというか写真を撮りたい衝動に駆られたが。
というか、次回からは家具市だけでなくて百貨店の広告にまで目を光らせないといけないなんて心労がありえない!
まあ運良く好みの家具は無かった(ヤツが言うには出逢いが無かった)みたいでなにも買ってこなかったんだけど。
………別に、少し気の毒かも、とか思ってないぞ?
帰ってきたギギナが愛娘に腰掛け憂う様もまた優雅、というより拗ねた子どもみたいで可愛いかもとか思ってもないぞ?いや、だから思ってないったら。
…じゃあなんでその日の夕食後のデザートが2品あったのか?
いや、あれはかぼちゃが余ってたし早く始末しないとまずいと思ってプディングを!
…あれはその日買ってきたかぼちゃ?
お、俺は知らない世の中良くある勘違い!
だから決してギギナの為に作ったわけじゃ無くって!
だから違う、違うんだってば!!
『ふわり』
寒い冬が少し暖かくなって。
開けた窓からは軽い風が入ってきた。
日が落ちるのも少し遅くなり、今はまだ明るい。
鳥が鳴く中、覗く桜は鮮やかに咲き誇り。
春風が運んだ花びらが掲げた俺の掌にひらりと落ちた。
「…ガユス?」
「ギギナ。俺は今、幸せに触ったぞ」
「…馬鹿か」
「うっさい、阿呆」
頭の上にはふわりと乗せられた大きな手。
『日長気長』
「愛している」
「家具か?咒式具か?それともこれから殺人予告か?」
手元の新聞から視線を外しもしない俺にギギナはむっとして「可愛くない」と呟いた。
「お前、俺に何を期待してるのか一体全体さっぱりだ」
「告白されたのだから頬を赤らめろ」
呆れた俺は付き合わない。新聞を捲る音だけが響く。
向こう側ではむくれたギギナがまた思案を始める。
一昨日は手拭を押し付けられた。
昨日は焼菓子を鞄に詰め込まれた。
今日はどうやら告白されたらしい。
では明日は?
今更ながらの恋愛手順に俺だって今更ながらもちょっとくらいの期待をしてもいいかな、なんて。
冬の日差しよりは気が長く、実は凝り性で世話焼きなお前の性分に賭けてみようか。
春が過ぎれば日は長くなる一方なんだから。
『新学期』
「ギギナ、お前たまには報告書を書け」
「ヒルルカ、そろそろ小等学校に通ってみてはどうだ?」
婿募集中の娘が未だ小等学校未満ってどうだ。犯罪だ。
「聞こえないという演技をするな。明から様過ぎだ」
「演技などではない。 私は真剣にヒルルカの将来を考えているのだ」
「学費工面の観点からまずこの事務所の将来を考えろ」
言いながら椅子の小等学校について考えてみたが人の小等学校の休日風景だと判明。もれなく机セットでついでに教室の隅で本棚が四六時中父兄参観をしている。
馴染みとなってしまった家具雑誌の今月号に混じって入学用具のパンフレットに目が留まる。
パラパラと捲れば几帳面にチェックし印を付けたらしい低学年用通学鞄の頁。昔馴染みの原色から似合う似合わないがはっきり分かれるパステルカラー。
中でも二重丸で囲ってある色といえば。
「万が一の次元での話として、赤色希望?」
「懐古趣味としてはそれも良いが最近の一番人気は明るめの桃色らしい。淡紫や青は男女問わず人気だそうだ。しかし我が愛娘が凡椅子と同等のものを身に纏うというのは如何なものか」
また妙な入れ知恵してきたな、と思いながらパンフレットを捲るとギギナが付けた印は通学鞄から新たな用具の頁へと続いていた。
「…言っとくけど、この事務所にはヒルルカの部屋は無いぞ?」
うちの帳簿は流行無視の完全懐古趣味を直走るらしい。
