・騎士×皇子のパラレルです
・主従グループはルルーシュ&カレン、ユーフェミア&スザクです
・それでもこれは騎士×皇子の話です
繰り返します、パラレルですよ?
スザクとルルは主従関係じゃないですよ?
けれど二人はスザルルですよ?
オールOKですか?そうですか。
よろしい、ならばレッツ・スクロール!
イライラの発散方法とは人それぞれである。
ある人は空に向かって大声で叫んでみたり。
またある人は一人無心重量上げ耐久レースをしてみたり。
そしてまたある人は抱き枕サイズのぬいぐるみをサンドバックにしてみたり。と。
十人十色。猫が祟らば末代まで。ストレスの発散方法とは人様々だ。
神聖ブリタニア帝国第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下この人にもストレスあって然り。イライラの解消方法あって然り。
他自共に認める頭脳派の彼のそれ即ち、何故イライラするのかストレスが溜まるのか、その根本原因を追究し解明・解決する事により解消する、という既に発散とは次元の違うものである。‥のだが。
「‥‥‥‥時間か」
時計の針がきっかり三の文字を指した。
自室の机で執務をこなしていた彼の意識は部屋に一つしかない扉の向こう、つまり廊下へ。
‥‥嗚呼、今日も来た来た来ました来やがった!!
「邪魔をするな退けカレンッ!ルルーシュっ!僕だよ!君のスザクが会いに来たよっ!!」
「殿下は大変デリケートな方でいらっしゃる!よって!ペット並びにその同伴者は絶対入室不可だと毎度言ってるだろうがッ!!」
「だそうですわ。だからスザクは外でお座りして待っていなさい、私はルルーシュとお茶をしてきますから!」
「スザクの犬っころ臭い毛が付いてる皇女も立ち入り禁止に決まってんでしょッ!」
イライラの発散方法とは人それぞれである。
他自共に認める頭脳派皇子のそれ即ち。
‥‥しかしこればっかりは、いくら原因がわかったところで解決策が浮かぶとは思えなかった。
今日も今日とてここは第十一皇子が私室。
きっかけなんて思い出せない。否、思い出したくない。
そのような己にあるまじき現実逃避の原因は今尚必要書類にペンを走らせ続ける自分の目前で毎度繰り返されるこの騒ぎだ。
「殿下はいつもお優しすぎるんです!」
「‥‥カレン、敬語」
「こんな阿呆主従二人、どうせ風邪なんか引くわけないんだから外に放置してればいいのよっ!」
カレンの言い分はわかる。
三時と言えば確かに間食の時間。しかしルルーシュの役職を思えばその時刻は未だ執務の最中だ。
来客があっては仕事は片付かないし、いくら気心が知れた相手であれ皇族同士。いつか玉座を争うかもしれない立場である以上、当然「見せられない仕事」もある。
主を思えば騎士として無用の来客を帰そうとするのは正しいだろう。
しかし、だ。
「風邪を引かないのは阿呆じゃなくて馬鹿だよ。そんなことも知らずによく士官試験に通ったな」
「黙れ、この補欠合格が」
「ルルーシュ、今日のおやつにはプリンを持ってきたの!ちゃんとルルーシュの分は二つあるわ!」
「おいそこの皇女!勝手に殿下に話しかけるなっ!」
「ねねね、ルルーシュ!今度ランスロットにフロートユニットが付くんだ!そしたら空を飛べるよ、だから今から一緒にトレーラーまで下見に行こうよ!」
「犬っころは一人で屋上でも走ってそのまま飛べ!」
‥‥こんな馬鹿騒ぎを延々と続けられては、廊下だろうが部屋だろうが最早仕事どころではない。
きゃんきゃんと吠える元気な犬が三匹。
ルルーシュは大きく溜息を吐いたが、誰の耳にも届かない。
そうだ、全くもってカレンの言う通り。自分が甘かったのだ。
一週間前。
最初にこの妹皇女の主従ペアが突然、本当に何の前触れも無くルルーシュの自室を訪ねてきた時もこの三人、扉の前で似たような言い争いを繰り広げた。
それは収まる気配が一向に見えない口論。案の定、二進も三進も行かない状況に陥る。
止むことなくドア越しに繰り広げられる喧噪に耐えきれなくなったのは、来客二人の相手をカレンに任せ、一人部屋で黙々と執務をこなしていたルルーシュだった。
いくらアリエス宮、己の城とはいえここにいるのは自分たちだけではない。
扉の向こうの喧騒の内容は他人が聞いて楽しかろうとも、聞かれて楽しいとは思えない‥というか、叫ばれる内容がその、あれだ‥‥品位を少々欠いていた。
それに急な来客だってあるかもしれない。もしもこんな醜態を見られる訳にはいかない‥というか、その醜態曝しの内二人がその『急な来客』にあたるのだが、急な用事がないことはカレンとの言い争いの中身で既に判明している。
例え皇族相手にアポなしの突撃をかましていようとも、その相手が第三皇女とあっては宮の侍女程度では拒否出来ない。こんな時ばかり王位継承権をパスポート代わりに使うなと思う。
ルルーシュは溜息を吐いた。
カレンは良くやってくれている。絶対に二人を通しはしないだろう。
しかし相手は皇女だ。シュタットフェルト家としての立場も考えてやらなくてはならない。
だからあの日、ルルーシュは重い腰を上げて扉を開けた。
自分が一言「帰れ」と言えばいかにあの二人でもおとなしく帰る。
そこには継承位や身分ではない。兄の言葉、友の言葉。
それを聞いてくれる。
あの日、ルルーシュが突然の訪問者であるあの主従に向けたのは家族愛や友情といった生半可な情ではない。
『‥‥おい、おまえたち』
ぶっちゃけ、かなり仕事の邪魔だった。
「大体ねぇ!この一週間プリンプリンって馬鹿の一つ覚えもいいところよ!」
「あら、プリンはルルーシュの好物ですのよ?貴女、騎士の癖にそんなこともご存じないの?」
「殿下は毎朝食後のデザートとしてプリンを召し上がってるの。一日三個もプリン食べたらコレステロール値が上がって健康に差し支えるでしょ!」
「ルルーシュ!それなら明日僕が金鍔持ってくるよ!和菓子は低カロリーで健康にもいいんだ!あと玄米茶!!」
「犬っころの餌なんか殿下に召し上がって頂ける筈無いだろうがッ!」
そう、あの日ルルーシュは扉を開けた。
仕事の邪魔しかしないこの二人に、あの場限りの引導を渡すために、だ。
扉が開いた瞬間、ぱっと輝いた紫と緑。二色に敵意剥き出しの翡翠。
無表情な紫暗は二色に言い放つ。
『邪魔するなら帰れ』
途端に陰った二色がしゅんと肩を落とす。勝ち誇った翡翠。
罪悪感にかられた紫暗。だから思わず言い放ってしまった。
『‥‥今日限り、入れてやるから』
―――それが敗因だった。
「毎回毎回!第三皇女の騎士如きが私の主のルルーシュ殿下に軽々しい口の効き方するなッ!」
「下世話な女だな。僕とルルーシュの仲なんだ、当然だろ?」
「ルルーシュ!このお部屋、セキュリティが甘いわ!有害電波が駄々漏れよ!」
あれ以来、味を占めた主従二人は根負けしたルルーシュが部屋に招き入れてくれるまでずっとずーっと。ルルーシュの部屋の前で彼の選任騎士と言い争い粘り続けるようになってしまったのだ。
最も、扉前の攻防戦の激しさが増すのは、ルルーシュが二人を招き入れるのを今日こそは阻止せん!と、彼の選任騎士が気合いを入れるのも理由の一つなのだが、その拮抗する三つの力関係性に気づくに為は皇子の好意認識レベルが不足していた。
ついでに、室外で繰り広げられた罵詈雑言が室内に聞こえたのだから当然、室内に場所を移しただけのこの言い争いはすべて室外に筒抜けであるため、根本的な解決には全くなっていないのだが、それに思い当たる気力も既にルルーシュには残っていなかった。
「僕なんか初対面でルルーシュ殴り飛ばしたけど今はカップルだもんね!」
「カップル?はっ!相変わらず妄想癖の激しい男ね!」
「上から押しつけるだけの愛なんて所詮偽物。第一、皇族に手を上げたことを誇らしげに語るなんて我が騎士ながらなんて愚かしいのでしょう!」
「だから責任とってルルーシュは僕のお嫁さんにするし、第一ルルーシュは許してくれたもん!」
「殿下への罪に時効などあるか!」
「無礼どころの騒ぎじゃないですわっ!」
「倫理的障害は全部、愛の力で飛び越えたんだよ!」
ちなみに、物理的障害である防音壁すら飛び越えている。
これがここ一週間のルルーシュの三時からのスケジュールだった。
目を通すだけで良い書類にサインをしながら、ルルーシュは時折振られる会話に適当に相槌を打つ一週間。それは今日も変わらない。これから投下される爆弾も同じくもはや日課。
ちなみに本日の爆弾投下係は第五位皇位継承権有するユーフェミア・リ・ブリタニア第三皇女殿下であった。
「添い寝なんて生温い!私、ルルーシュと一緒にお風呂入ったことありますもの!」
空気が変わった。
騎士二人が凝固した。
桃色皇女は誇らしげだった。
黒の皇子は書類だけを見ていた。
ばんッ!とルルーシュの執務机が揺れる。
「ほぇあっ!?」
「ねっ!そうよね、ルルーシュっ!!?」
「えっ?あ、はいっ!」
「おおお風呂‥って‥な、な、な‥!?」
「ルルーシュっ!なんで恋人の僕とは入ってくれないのに他人とは入ってるの!?」
「‥いや、スザク、いつから俺とおまえが恋愛関係になったんだ。そしてカレン、戻ってこい。あと風呂といっても初等学校にあがる以前のことで、」
「「やっぱり入ったんだッ!!」」
それなりの広さの私室に騎士二人の絶叫がこだまする。
机越しとはいえ、皇女と騎士二人に肉迫(しかも自分は座っているが相手は立っている。まるで体育館裏に呼び出され、これから私的制裁を加えられる高校生の図だ)されては。
「‥‥なん、です‥か」
怯えるしかない。
しまった、また話を聞いていなかった。戦況が全く掴めない。
後悔は後でも出来るが、懺悔したって現状の打破は出来ない。
取って喰わん、とばかりにギラつく騎士の瞳四つに睨め付けられては、頭脳派の皇子様は哀れ、一歩後退するしかない。座っているので出来ない。
「「はっきりしてッ!!」」
それはまさしく戦場を掛けるが如く騎士の気迫。否、ルルーシュを除く三人にとって生とは常に戦の場であり略奪の場である。何のって、愛の。
このままではヤられる!
壊滅的に鈍い危機本能でもそれは悟った。主に今の背徳感と今後の自由、あと一生一度の操の危機である。
状況は圧倒的に自分に不利。
なんと言っても相手は選任騎士二人、しかも世界でも強大な軍事力を誇る我らがブリタニア軍の中でも屈指のナイトメアの狩り手。無理。勝てない。ベクトルは不可能の方へ全力で直進だ。いやまてそうそうだ、相手は騎士、そう選任騎士なのだ。その手綱は皇族にある。そしてその二本の手綱は今この部屋に揃った、よし前提条件はオールクリア!
逆転必死の起死回生策。
ルルーシュはもう一つの手綱を握る己の左斜め向かい、見た目はにこにこと笑顔の桃色姫にコンタクトを試みる。
「おいユフィ!おまえのせいでフォロー不能の事態になったのだから何とか、」
「「“ユフィ”ッッ!!?」」
‥‥ピンチ、とは。
時に人に実力以上の成果を上げさせるスパイス、限界突破への着火剤だ。
しかしそれ以上に起爆装置でもある。主に冷静さを爆破する。
今回、ルルーシュには後者としての役割を果たしたと言えよう。
曰く、焦りすぎて地が出た。
「“ユフィ“!?ちょ、殿下っ!“ユフィ”ってなんなんですか!?」
「愛称!?愛称なの!?僕のことはそのままスザクなのに何で皇女は“ユフィ”!?」
しまった、と思うのは既に手遅れだからだ。
ちらりと視界に入った皇女は「ふふん♪」と語尾に音符でも付いて来そうな勢いでご機嫌だった。ここ一週間で最高のご機嫌具合だった嗚呼麗しゅう。
あああもうこうなるのは目に見えてたからこの二人の前では皇位継承権に順じた接し方をしてたのにやっぱりその態度を根に持ってやがった第三皇女ユーフェミアアア!!!やられた!こんな簡単に!ああもうチクショウ!!
「煩いちょっと黙れそこの騎士二人っ!」
「ですがッッ!!」
「だってッッ!!」
叫んでみたが所詮は戦う側と守られる側。
駆け出しこそ良かったが、加速装置付き二人の止まらない気迫と場の混乱に怯んだルルーシュは助けを求める。机を挟んだ斜め左向かい、視線の先には紫の瞳。考える必要もなく相手が間違っている。つか元凶。
しかし騎士を除けば部屋には彼女しか残っていなかった。ルルーシュには判断力が残っていなかった。
己の薄紫よりも若干彩度を落とした紫暗を、姫君はにっこりと完璧な慈愛の微笑みで至玉を授かるが如く受ける。
意志を汲み取ってくれたさすがは血縁、と安堵のため息を吐いた皇子の前で皇女は隣の騎士二人に堂々と宣った。
「私とルルーシュは遙か昔、生まれた辺りから今までずっとユフィと呼び合う関係です。そこに取って入ろうだなんてたかが日本人の癖に図々し過ぎて臍で茶を沸かした後に炒り胡麻が擂れてしまいますわ」
いや、呼んではいるが呼び合ってはいない‥‥というか。
「お人形の皇女が日本人を愚弄するなッ!」
「皇女殿下!そのような差別発言はどうかと思います!」
「これって皇族批判でなくて?何とか言って差し上げて、ルルーシュ!」
「誰が事大きくしろと言ったんだ!ユフィっ!!」
「「またユフィって言ったッッ!!!」」
今日も今日とてここは第十一皇子が私室。
そこで繰り広げられる日常は限りなく平和でいて―――どこまでいっても非日常の延長を脱してはいなかった。
地平線は未だ見得ない
疑問:スザクはどうして電波ってるんですか?
解答:常時フルスロットルでルルーシュメーターが振り切れてるからです。
結論:皆ルルが大好きなんです。
2007.8.6 わたぐも