※スザクはユフィの騎士やってます
※スザクがゼロを討った設定です。が、ゼロ=ルルーシュだとは知らないままです
※カレンとユフィはゼロ=ルルーシュだと知っています
 カレンはスザク=白兜と知ってます
 スザクはカレン=紅蓮と知りません
 スザクだけが何も知りません











学園は、第三皇女殿下の騎士着任に伴い退学した。
彼女は何度も自分に謝った。けれど当時17歳だったとはいえ、仮にも軍人であった自分が学校に通わせてもらえたことが特別だったのだ。彼女に感謝こそすれ、恨みはない。
「あなたが騎士に指名してくれたから、黒の騎士団を追える」
微笑んでそう言う度に、主は何故かとても悲しげな藤色で自分を見た。



同窓会の案内状を受付に提示し、門を潜る。
久々過ぎる学び舎。しかしなにもかもが記憶のままだった。

「スザク?スザクじゃねーか!」
「‥あ、リヴァル」

駆け足でこちらに向かう足音を響かせて笑顔で出迎えてくれた友人。
遠慮なく叩かれる背中が痛い。けれど変わっていない彼の態度に、濁り始めた溜飲のいくらかが落ちた。

「でもまさかスザクが来れるとは思わなかったぞ」
「僕も思ってなかったよ」

零れた笑みの半分は苦笑。
騎士であるとはいえイレヴン、その上途中退学の身。そんな自分に同窓会の招待状など届くわけがないのだ。
それが届いたということは、恐らくミレイが取り計らってくれたのだろう。
自分は行けないけどせめて、と。

「で、ゼロを討ち取った大将様!本日は羽根伸ばしで?」
「大将じゃなくて隊長なんだけど」
「出世しても天然ぶりは相変わらずだなー」


ゼロを討った。
一年前、自分がこの手で彼に止めを刺した。

その瞬間は呆気ないほど簡単で、正直よく覚えていない。霞みがかった様な情景の中、気付いたら全てが終わっていた。
手元に残ったのはランスロットが無頼を破壊したことが記載されたデータ映像だけ。
ナイトメア越しでは死を与えた感触すら残らなかった。

その後、ゼロの遺体とナイトメアは軍が回収した。
けれど、彼の素顔は見ていない。
彼に関する情報は一般市民はおろか、軍にすら公開されなかった。一部の皇族、あとロイドも何か知っているようだったが聞いても曖昧に誤魔化されるのがオチだろうし、スザク自身、ゼロの正体にそこまでの興味がなかった。
それよりも黒の騎士団の残存勢力の殲滅が優先された、というのもある。

リーダーであったゼロの死亡から既に一年近くが経過しているが、彼の親衛隊を筆頭に黒の騎士団は未だ活動を続けていた。
そこにはゼロが健在だった頃の周到さも狡猾さもない。だが勢いが止まらないのだ。

『弱者の味方、撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけ』

そのスローガンが覆されることは決してない。
彼らは常に軍へのテロを繰り返す。ただ、ゼロが健在だった頃よりも激しさが増した。執念を滾らせ怨念を滲ませ、日々激しさを増す反逆。
そう、彼らは確かにゼロの意志を継いでいた。それがゼロの遺志なのかはわからない。
わかるのは、ゼロはテロリストにとって煽動者であり、防波堤でもあったのだということ。

その情勢を思えばスザクに軍務外に割ける時間などありはしなかった。同窓会など論外だ。
正常で94%を越える異常な稼働率。
スザクに続く騎士は未だブリタニアには現れていない。第七世代の量産が物理的に可能であってもパイロットは作れない。
常勝を誇ったコーネリア亡き今、今や白の騎士はブリタニアの要。第三皇女の庇護の下、騎士は完全な足場を築き上げていた。
にもかかわらず彼の主は「行ってこい」と、しかも命令なのに有休扱いという矛盾の指令を出して笑った。
「17歳なら学校へ行くべきだ」と言ったあのときと同じ笑顔だった。



「しっかし生徒会のメンバーも散り散りになっちまったな」
「そうだね‥」
「あと会長は‥あ、スザクは会長には会ってんのか」
「旦那さんの方なら毎日顔を合わせてるんだけど」

その言葉に沈んだリヴァルに、「大丈夫、仲良くやってるって言ってたから」と気遣うと「この天然」と睨まれた。
しかしその瞳はすぐに訝しげにスザクを見るものに変わる。

「なに、誰か捜してんの?」
「え?あ、うん‥」

黒髪が通り過ぎる度に追ってしまう視線に気付かれた。学校を辞めて以来、一度も会えていない髪の色。

「‥‥あのさ、」


しかし続くはずだった言葉は「幹事ー!」と叫ぶ声に遮られた。

「まぁたトラブってんのかぁ?スザク、悪ぃ!」
「いいよ。むしろ生徒会だったのに何もしてない僕の方が、」
「おまえは軍人、毎日頑張ってんだろーが!今日ぐらいはこのリヴァル様に任せて羽根のばしてろって」
「‥ありがとう」
「また後でな!」


去っていく背中を見送った。





*





「やっぱり携帯、持ってた方が良かったかなぁ」

力ない呟きは、級友たちの間に咲く昔話の中に紛れて消える。

「携帯を持て」と言われる度に「直接会いたいんだよ」と言ってルルーシュを赤面させた思い出。半年にも満たなかった学生時代。
頑なに携帯を持とうとしなかった自分。
彼が連絡をとろうと電話をかけてくれたとしても、自分がそれを取れないだろうことは目に見えていた。
その回数分だけ自分が軍人であることを学生の彼に印象付け、またその度に彼を孤独にさせたくはなかった。
そしてそれ以上に、不在を繰り返すうちにいずれ彼が連絡をくれなくなってしまうのではないか、切り捨てられるのではないか。それが怖かった。

けれど実際、連絡をとれない側になって気づいた。この状態もさして変わらぬ孤独だった。

「‥‥やっぱり持ってた方が良かったな」

今日彼に会ったらまず謝ろう。「一人にしてごめん」って。
そしてルルーシュの都合がよければ一緒に街に出て選んでもらおう。そういうのに詳しかったから。
「携帯欲しいんだけど」と切り出せば、ルルーシュはあの呆れた自慢顔で僕を見てきっとこう言うのだろう、「ほらみろ、やっぱり俺の言った通りだったじゃないか」と。



「ッ!?」

想像に頬が弛んだその瞬間、凍てつく殺意に刺されて振り返る。
嫌悪と憎悪の入り混じった重い殺気を辿った先、そこにいたのは大人しく下りた赤い髪と病弱なエメラルドの瞳。


「―――‥カレン?」
「久しぶり、スザク君」

にこり、と優しい笑顔は大人びていて、柔らかな瞳は落ち着いていて、自分が感じた冷たく熱いあの殺意とは正反対だった。
素早く辺りを見回すが、怪しい人影など当然ない。

(気のせい‥?)

釈然としない。
あれほど強い感情を受け取り違うなどあるのだろうか。
まるで戦場で敵と相対したような錯覚を、この平和な場所で。

「どうしたの?怖い顔して‥」
「あ、いや‥」
「もしかして疲れてる?軍、忙しいみたいだし」

確かにここ最近は特に軍務が立て込んでいた。
そうだ、イレヴンに対する偏見はあったとしても、あんな殺意がこの場にあるはずがない。
そう、ここは戦場じゃないのだから。

‥そうかもしれない、と苦笑する。
ユーフェミア皇女殿下も、この疲労を見越して今日自分をこの場へやったのかもしれない。息抜きが必要だった。


「でも本当に久しぶりだね」
「あなたが皇女殿下の騎士になって以来だもの―――そうね、二年振りかしら、こうして直接会うのは」
「そっか、もうそんなに経つんだ」
「実感無い?」
「毎日忙しかったから。君は?」
「私?」


「‥長かったわ」


呟く瞳はどこか遠くを見ていた。
シュタットフェルト家はブリタニアでも有力な家柄だと聞いたことがある。
そんな家のお嬢さんだと、いろいろ気苦労もあるのかもしれない。

「皆のことは聞いた?」
「シャーリーは引っ越し、ニーナは本国、ミレイさんは僕の上司と結婚してリヴァルは大学生。みんな本当に散り散りで‥‥あ、アーサーはリヴァルが面倒見てるっていってたから、あそこはセットだ」
「羨ましいの?」
「少し‥‥‥‥‥かなり」

訂正を入れれば笑われた。柔らかな笑顔。

「カレンは今は何を?成績良かったしやっぱり大学?」
「いいえ、進学はしてないわ」
「え‥‥まさか結婚ッ!?」

まさか、と彼女は笑った。
カレンは曖昧に微笑むだけだった。
優しいのにどこか寂しげな、見覚えのある笑い方。どこで?

「‥‥じゃあ、何を?」

携帯が鳴った。
カレンがディスプレイに視線を走らせる。

「ごめんなさい」
「いいよ、出てあげて」
「ありがとう」

携帯を手に離れて行く彼女が、ぺこり、と頭を下げたのがなんだか可笑しくて、少し笑ってしまう。

「―――ああ、スザク君」
「ん、なに?」

背中を向けたまま、静かな声がスザクを呼ぶ。


「ルルーシュなら、来ないわよ」


「‥‥え?」
「待つのはあなたの勝手。けれどいつまで待っても彼は来ないわ、絶対に」
「カレン、それどういう、」
「さようなら。また会いましょう」


(そしてまた殺し合いましょう、戦場で)



「スザクッ!」

自分を呼ぶ声。
初めに聞いたその声で、はっとする。
疑問も固まっていた時間も霧散した。

「さっきは悪かった!」
「平気だよ、カレンと話してたし」
「カレン?なんだ、探し人ってカレンだったのか?」
「違うよ」
「本命は?」
「残念ながら」


いつもそうだった。
僕の方から彼を探すと見つからない。
七年前も、今も。
学園を去ってからの二年、連絡を取ろう取ろうと思いつつも先延ばしになっていた。
それは取れなかったのか、取らなかったのか―――取ろうとしなかったのか。


「なんなら校内放送で呼び出してやるぞ」
「いいの!?」
「幹事権限」


喜び。純粋な喜びだったんだ。

初めて出逢った場所は、薄暗い蔵の中。
七年の時を経て再会した場所は、またも薄暗い地下の道。

僕らの出会いも再会も、奇しくどちらも仄暗い穴倉の中だった。

けれど今は違う。もう違う。
ここはこの場は暖かな陽の当たる場所。
三度目の相対は、暖かな場所で、幸福な。


「で、誰呼べばいいんだ?」
「うん、あのね、」






「ルルーシュに会いたいんだ」







巡る季節また一廻り

僕が立つ場所、冷たい石の前。三度目の相対は確かに暖かな場所だった。
(なのにどうして君は陽のあたらない土の下?)



ルルーシュの死については葬儀(遺体無し)があったので皆知ってます。
ルルはスザクに最期を与えて貰えて幸せでした。与えるばかりだった彼が初めて他人から貰ったもの。けれどカレンは納得してません。
ナナリーはルルの意志と遺志を継いだカレンの庇護の元で、第三の人生を送っています。
カレンがシュタットフェルト家においてそこまでの権限を持っている理由はそういうこと。修羅の道。

スザクだって頑張ってます。ただ何も知らなかっただけ。
別離も憎悪も愛情も。なにも知らなかったんです。


2007.2.22  わたぐも