拝啓、嘗て友だった君へ



お久しぶりです。
そっちの世界はどうですか?
一月もあればもう馴染めた頃かな。

こっちの世界はとても綺麗になりました。
ああ、そうだ。


「スザク君、今日も生徒会来れる?」
「うん。もう軍には行かなくていいから」


僕、軍を辞めました。
その相談をしたら上司は苦笑したけれど、総督は簡単に了承してくれました。
僕の主が最期、「学校に行って」と言ったことを話したからだと思う。
あ、皇族である総督に謁見できたのは、僕が正式にブリタニアの貴族階級での騎士になったからです。

生徒会は相変わらず、会長さんの突飛な企画に振り回されています。


「やるわよ!男女逆転祭!」
「またァっ!??」
「なら幼稚園の日」


皆おんなじ水色の割烹着を着て、黄色のチューリップハットを被りました。
そこまでは楽しかったんだけれど、「ねんちょうさん ももぐみ くるるぎすざく」 と書かれた名札はさすがにちょっと恥ずかしかったかな。


「やぁ、ナナリー」
「スザクさん!お久しぶりです!」


そして一番の気がかりだと思う君の妹。
大丈夫、とても元気です。
クラブハウスを訪れると、変わらない笑顔で僕を迎えてくれます。
あとアーサーも相変わらず、僕を見ては噛み付きます。


変わらない。変わっていない。何もかも。
みんな、いつもどおり、普段どおり。とても平和。
これが僕の目指した世界。正しい方法で勝ち取った綺麗な世界です。

なのに、どうしてだろうね。


「‥つまらないんだ」


和やかに挨拶してくれる名前も知らない道行く人。
親しげに話しかけてくれる学園の人。
楽しかったはずの学校生活。
増えた友達との語らい。
彼女の顔を見るために歩むクラブハウスまでの道のり。
何もなかったかのようにも戻ってきた日常。

そのどれもこれもなにもかもが、陳腐で退屈で平凡な駄作のB級映画みたいにつまらないんだ。

欲しい物を手に入れたはずなのに。
馴染んだ日常のはずなのに。
一体、何が違ってるんだろう?


『スザク、そっち‥何か、変わったこと、ないか?』
『あるよ』


―――ああ、そうか。


「君が、いない」


ルルーシュ。
君がいないんだ。

大好きだった紫の瞳。
大好きだった低めの声。

僕を呼ぶ君の声が、台詞が、視線がない。
僕が触れ合う人の誰もが誰も、君のことを話さない。

まるでルルーシュという君の役だけが、すっぽり抜け落ちたように。
まるで最初からなかったかのように、何も無い。
君は盤上(世界)からとても綺麗に消え去った。


「ね、ルルーシュ」


―――嗚呼、今日も空がとても青い。


「そっちの世界はどんな感じ?」



嘗て友だった君へ伝えたいこと。
それは、僕は今日も元気だということです。


敬具




追伸:
君の現住所を教えてください。
手紙を投函した後で、近いうち、僕もそっちを訪ねます。









ラヴレター
【退屈の演技はエキストラ。そして彼らはヒーローを殺す】



ルルがゼロだったことは実はみんな気付いててだから報復が必要で、みんなスザクが死ぬのを待ってるよ、みたいな。(救いは何処)


2007.8.11  わたぐも