もしもの話で今日の生徒会は盛り上がった。
誰かが「試験がいやだ」と言ったのが始まりだった気がする。
誰かが「タイムマシン」と言ったのがきっかけだった気がする。
ルルーシュが「夢が無い」と言われた所で話が逸れた気がする。
つまり、もしも例えば過去に戻れるなら。
そんな話で盛り上がった。






「いくらなんでもタイムマシンは無理だ」
「わかんないよ、勉強机の引き出しさえあればある日突然四次元に繋がるかもしれない」
「ああ、昔テレビで見たあの皺枯れた声の蒼い狸と間抜けな小学生」
「ルルーシュ、猫!あれ猫型だから!」

生徒会室からクラブハウスの正面まで。スザクとルルーシュが踏み締めるこの時間は、とてもとても短い下校の時間。顔を上げるとルルーシュの私室が見えた。
七年越しに二人が手にした帰り道はもう終わり。もう、さよならだ。

「あの、さ」

急に名残惜しくなって、もう少し話をしたくて、先延ばしにしたくて。
つい言葉が口を吐く。

「ルルーシュなら、いつに戻りたいの?」

もしも本当に過去に戻れるとしたら。一つだけ選べるとしたら。

それは生徒会での話題の延長。
生徒会のメンバーに聞かれた時は曖昧に誤魔化したけれど、スザクの答えは決まっている。
ルルーシュとナナリーと一緒に過ごした日々。
あの一年がスザクの幸福の頂点だった。

今だって、同じ敷地とまではいかないけれど、一本道路を挟んだだけのところに自分は住んでいる。
ルルーシュという存在がいつも目と鼻の先にある。ルルーシュは相変わらずナナリーが大好きだ。境遇を見れば七年前と変わらない。それどころか今は同じ学校にまで通っている。
なのにどうしてだろう、毎日会うことは無くなった。
昔は雑木林だって敷居だって人種すら越えて触れ合ったのに。


「ルルーシュ?」

一向に聞こえない返事に名前を呼んだ。
見ればルルーシュは俯いてしまっていた。長い前髪が顔を隠しているから表情は伺えないけれど想像に難くない。きっと、口を引き結んで眉間に皺を寄せて、紫の瞳は苦渋している。

ルルーシュが答えられないことを分かっていながら敢えて問うた。自分はかなり残酷な事を言った。
少しでも長く、ルルーシュといられるように。
決して傷付けたい訳じゃない。
けれどいつも自分の願いばかりが先行していた。
彼からの返答にほんの少し期待を抱いて。身勝手でしかない望みを込めて。

わかっている。聞くまでも無い。
スザクの戻りたい時が決まっているように、ルルーシュにとっても戻りたい過去などたった一つだ。
母親が殺される前。
ナナリーの足が地に付き、瞳が光を映していた時。
そこがルルーシュにとっての、幸福の頂点。
スザクと出逢えたのだって、彼の母親が死んだから。彼の妹の足と目が不自由になったから。
崩れた幸福の屑は絶望の欠片と同義。
ルルーシュの幸せに、スザクはいない。

そう理解しているのにスザクは問うた。ルルーシュの一番はいつなのか問うた。
それは一見自虐的なようで、実は何処までも保障された保身の行為。
ルルーシュは優しい。テリトリに入れた者は何があっても守ろうとする。
だから決してスザクが悲しむような事や困ることは言わない。だから今も何も言わない。
言わないだけで、決して傷付けないわけじゃない。

(―――‥わかってたのに、な)

返事の無い返事にもスザクの笑みは崩れない。初めから自嘲の笑みだったからだ。
それでも期待した。期待せずにはいられなかった。共有したかった。
自分にとって幸せの頂点がルルーシュと共に駆けた日々であるように、彼にとってもそうであって欲しかった。
自分の幸福が彼の幸福と等価であると思いたかった。

最も、そうだと言われたら言われたで、優しさという彼の嘘に自分は絶望するのだろうけれど。


「‥思い出に浸っても仕方ないだろう」

独善の我儘な思考は、答えになっていない答えによって断ち切られた。

「俺は今、生きている」
「うん、そうだね」



さよなら、と言って別れた。
また明日、と言われた。


例え話も必要ないほど 彼はもっと強くなって 今日も前を見ていた。






本当にくだらなくて本当に切ない、例えばの話










一緒に過ごした一年がルルにとってもスザにとっても楽しかったことは違いないのに、そこに寄せる想いの強さは違うのが切ない。
ルル視点も書きたいなこれ。


2007.3.5  わたぐも