「君はっ‥!あの時、君は本当にあの場所に‥っ!?」
小さな背中は否定も肯定もしない。
新緑色の長い髪が風に流され静かに揺れるだけ。
思わず追ったその後ろ姿は、暗い路地に佇んでいる。
「おまえの望む未来と、ゼロが想う未来」
ナリタで聞いたのと同じ声だった。
凛としていて強い意志を感じる声。なのにどこか人間味に欠けていた。
「その二つは同じものだ。争い全てが無いわけではない、しかしせめて戦争が無い世界」
──ああ、彼女はやはりゼロの仲間なのだ。
だから彼を想って彼女はわざわざ現れた。軍人である自分の前に。
「どちらのやり方でも、“戦争の無い世界”を作れる。人々は幸福になる。火の粉を被らなかった“大勢”にとっては、過程の先の結果、幸福になれればいいのだから」
「‥‥だから正しいのはゼロだと?」
「さぁな。決めるのは私ではない。幸福を得た人間だ」
「‥‥結果だけじゃ、意味が無い」
「お綺麗で崇高なことだな。おまえの望む未来、その世界は」
辛辣な言葉。しかしそこに嘲笑は含まれず、ただ静かに淡々と事実を告げるだけ。
「しかしおまえの愛しい人間はそこにはいない。そこにおまえ自身の幸福は存在しない」
「‥‥僕の幸せなんか、どうでもいい」
それは誰かに言ったことがあるようで、しかし今まで一度も言葉にしたことがなかった想い。
みんなを助けたい。救いたい。二度と間違わないように、正しく正しい方法で。
「みんなが幸せに暮らせる世界が出来るなら、それでいい」
「その“みんな”とやらにルルーシュは入っているのか?」
ルルーシュ。
何故彼女がその名前を知っているのだろう。
「当然だよ」
「おまえの望む未来にその男はいないぞ」
前にユフィが言っていた。
『ゼロが兄を殺したのは、兄がブリタニア皇帝の子どもだからだ』と。
しかし、僕の望む未来にルルーシュがいない、とはどういうことだろう。
皆が幸せになれる世界を求めているのに。
「‥それは彼がブリタニア皇帝の子どもだから‥‥だからゼロはルルーシュも殺すということ?」
ああそうだ、今目の前にいるこの子は、ゼロの仲間だった。
「ゼロは、ルルーシュを殺すのか?」
目の前の少女からは沈黙しか返ってこない。
求められているのは問いへの答えだけなのだ。
「それなら僕は、ゼロを殺してでもルルーシュを助ける」
嘘では無い。
「その時になったら僕は―――ゼロを殺す」
自分は本当にゼロを殺すだろう。
「それではおまえは救われない」
「みんなが、ルルーシュが、幸せになれるなら構わない」
「愚かだな」
「知ってるよ」
白い騎士は笑った。
悲劇を予期できない騎士は悲しく笑った。
「‥‥本当に愚かだ、おまえも」
魔女は嘲ることなく瞳を閉じる。
「あいつも」
しかしスザクに討たれることは
ルルーシュにはとって確かに救いかもしれないけれど。
あの時の気持ち、嘘じゃなかった
スザクの欲しい未来にゼロはいらない。
スザクとC.C.に絡んで欲しかった。
2007.1.15 わたぐも