お疲れ様ですスザクさんゼロを殺したんですねユーフェミア皇女殿下の仇を取れましたねおめでとうございますやっとブリタニアに認められましたねそこで私本懐を遂げて見事英雄になったスザクさんにお聞きしたいことがあるんです。
『 ど う し て 、 ま だ 生 き て る ん で す か ? 』
絶叫を上げる事すら出来ずに飛び起きた。
「おはようございます」
「―――っちが‥ッ!!」
綺麗な笑顔。長い睫で纏った瞼は今日も降りたまま。
「‥‥あ、れ?」
「どうされました?」
‥‥そうだ。僕は今日も、ここに、クラブハウスに来たんだった。
時計を見る。長針は自分が訪れた時から、まだ一周もしていない。
「‥ごめん、ナナリー。うたた寝したみたいだ」
「構いません。スザクさんの寝顔‥は見れませんけど、寝息は可愛らしかったです」
「あはは‥それは、寝顔より恥ずかしいな‥」
「まぁ」
鈴を鳴らしたような笑い声に苦笑いを返した。
立ち上がった勢いで倒してしまった椅子を立て直す。
喉が渇く。肌が泡立つ。頭がぐらぐらした。
‥最近はこんなのばっかりだった。
「お疲れですか?」
気遣いの見える声に椅子の背を掴んだ手が強張った。
「‥いや‥そんなことは‥」
「今日はもうお休みになってください。明日の軍務も早いのでしょう?」
「でも、」
「私のことなら大丈夫です。咲世子さんもいらっしゃいますから」
「‥そうだね」
気掛りはあった。けれど今日はもう帰ることにした。
これ以上ここに居ても、逆にナナリーに気を使わせるだけだから。
大して広げてもいなかった通学鞄の柄を掴み、ドアへと向かう。
そのまま扉を開こうとして‥スザクは立ち止まった。
「ねぇ、ナナリー」
「はい」
鈴が鳴るような綺麗な声だった。
「寝てる時‥僕、何か言ってた?」
「いいえ。何も」
「‥‥なら、君が」
――― 僕 に 、 何 か 言 っ た ?
「スザクさん?」
不自然に途切れた言葉にナナリーが小首を傾げたのが背中越しに伝わった。
何の悪意も他意も無い。純粋に兄の帰りを待つ妹そのもの。
‥‥そうだ。此れがナナリーだ。
純粋で無垢な優しい女の子。ルルーシュが大切に大切に守り育てた少女。
そんな彼女が、あんな事を言う訳が無い。
真実を打ち明けられないのは自分。後ろめたいことがあるのは自分だけだ。
そんな身勝手な後悔が被害妄想となってあんな夢になったんだ。
『 ど う し て 、 ま だ 生 き て る ん で す か ? 』
―――加害者の癖に『被害』妄想とは、思い違いも甚だしい。
「ごめん。なんでもない」
「スザクさ、」
自動扉が閉まる。
追いかけてきた言葉は途切った。
耳に入れる言葉が痛い。背に刺さる視線が辛い。
それも全部、自分本位の思い違い。
だって、後ろめたいことがあるのは自分だけなのだから。
今日もきっと、眠れない。
「スザクさん、ナナリーは安心しました」
私の言葉は、ちゃんと届いているようですね。
自動扉に遮られた言葉はナナリーの元へと戻ってきた。
「今日の紅茶、用意しなくて正解だったでしょう?」
「ええ。しかし枢木様は相当参っていられる様子です。もう来られないのでは?」
「来ますよ。間違いなく」
ユフィお姉様は死んだ。
ならばもう騎士の生きる意味はこの世に無い筈。
主のいない騎士など生きる意味も生きる価値も、存在意義すら無い。全くの無駄だ。
にも拘らずスザクはどうして今もナナリーの前に現われ、その盲た紫暗の前で、のうのうと空気を吸って水を飲んで布団を被って寝て起きて食べて働いて遊んで喋って脳を肺を心臓を動かしてる?
その答えは至極簡単にして明解。
「『あれ』は一人で生きれる生き物ではありませんから」
そう、『あれ』は一人じゃ死ぬことも生きることも出来ない意気地なしな生き物だ。
ユーフェミアがいなくなったから、ナナリーに縋っているに過ぎない。
そうだ、私は最早あの男の生きる意味そのもの。
そしてそれがゲーム参加の絶対資格。
兄が好んだのはボードゲーム。
私がするのはカードゲーム。
しかし枢木スザク、おまえは遊戯に参加できない。
何故ならおまえ自身が、私に遊ばれるカードだからだ。
「お兄様、地獄は明日も晴れそうです」
ゲームはまだ始まったばかり。
ト ラ ン プ
【裏表ある私たちにはぴったりのゲームだろう?】
私の生きるこの世は兄がいないだけで地獄に変わる
私と共に生きるとほざくおまえも業火を纏いて苦しみ のたうて
2007.8.19 わたぐも