貴方にとって兄は何処までいっても敵だった。
貴方にとって兄は友としても最悪だった。

だから貴方はいとも簡単に兄を切り捨てられる。
だから貴方はそうも容易く友だと名乗れる。

そこに篭った重みを知らぬ貴方は、銃を恐れぬ貴方は、いつも軽々と引き金を引く。

そしてそれは対象が他の誰に切り替わっても同じこと。
軍部の上司。見知らぬ他人。敬うべき皇族。
反逆と復讐を声高々に宣言すれば、貴方は簡単に切り捨て踏み付け、また進む。

例え、それが私でも同じこと。
事実、それは兄だった。

時が止まっていたなどと何を冗談。
時が止まらなかったからこうなった。
歩み止めることなく前へ前へと進んだ結果、こうなった。

貴方が助けてくれなかったから、こうなった。
貴方が止めてくれなかったから、こうなった。
私たちを知っていたのは貴方だけだったのに。
私たちを止められたのは貴方だけだったのに。

「何も言えなかった」と嘆く振りして、言うべき言葉を堪える力はあったのに。

知っていたなら、どうして助けてくれなかったのですか。
わかっていたなら、どうして止めてくれなかったのですか。
義務を負っていたなら、どうして果たさなかったのですか。

「間違っている」と声高々に吠え叫び、武力を行使し叩き潰すだけなのですか。

私はわかっています。
私は知っています。
私は見えています。

貴方はファスナーが食い違うのを待っていた。
貴方は事態が手遅れになるのを待っていた。
貴方はそうするしかない場面をずっと待っていた。

その行為が唯一己を正当化できるから。
その行為で二度と来ない筈だったチャンスをものに出来るから。
その行為に再び陽のあたる場所を見出したから。


「スザクさん、ユフィ姉様の話を聞かせてくださいな」




その行為だけで、おまえは!!!!






片道ファスナー
【二度と表に出られず陽もあたらなかったのは、私たちだけ】



今すぐその口を縫ってやろうか、ファスナーなど必要ない
拒むのならば金輪際、二度と兄の友を名乗るなその口で


2007.10.9  わたぐも