「言いたいことがありそうだね」
「別にそんなことないですけど?」
「そうかな」

何かの資料(多分提案という名の作戦関係)を漁りながら、パイプ椅子に腰掛ける様も優雅な上司に苛々する。

「あー、すいませんうっかり操作を間違いました」とでも言って現在調整中のナイトメアをこの男目掛けて突撃させたら、この鬱々とした心情もいくらかすっきりするのではないか。
けれど直ぐに思いとどまる。自身の最高傑作にこんな男が触れるのにまず耐えられない。
パトロンだろうが気にしない。気に入らないものは気に入らないのだ。

キーボードを叩く音が僅かに乱暴になったのを耳聡く聞きつけ小さく笑った第二皇子の存在を、ロイドは意識の外へと追い出した。



なんでいっつもランスロットなんだ。

そう言えたらどんなにいいだろうか。
ついでに拳の一発でもお見舞いしたい。(セシル君に頼めば今なら笑顔で協力してくれるかもしれない)

絶望的な状況下でランスロットが投下される事を言っているのではない。
ならば何が?、と聞かれると分からない。(これもすっきりしない原因のひとつだ)
ただ、そういうことが気に入らないのではないのだ。


まず、今回のキュウシュウ戦役での作戦は全部気に入らない。
第二皇女殿下の部隊なら陽動など必要ないだろう。時間と戦力の消費を気にしなければ、の話にはなるが戦力を思えば事実だろう。

いつかの日本解放戦線殲滅の時にランスロットの起用を提言した将軍は今回の作戦には参加しない。
ならば作戦指揮者はナンバーズ嫌いの第二皇女だ。彼女がスザク君の力を認めていることは知っている。しかし出来るなら使いたくは無いだろう。そして今回は事の首謀者が首謀者、彼の父親の元側近。
特派を作戦に参加させない理由には十分だ。出撃命令などくだらないと思っていた。シュナイゼルの提案など受け入れるはずがないと思い高を括っていた。

しかし覆った予想。 「なんで!??」と詰め寄るロイドの剣幕に、出撃命令を伝えた彼の補佐役は呆気に取られた顔だった。
そして作戦拒否をしてくれないかと期待を込めた肝心のパイロットは「出撃します」ときたもんだ。ああもやもやする!(拒否しても命令に変わりは無いけれど)

だいたい、あの子もあの子だ。

式根島では命令を無視して生き延びたくせに、なんで今回の作戦は素直に受け入れたんだ。
生きることに前向きになったのかと思ったのに。いつか言った、彼を殺す矛盾を解消したのかと思ったのに。
それに気付けば「死にたい」が「死ななければ」に移行してる。
前と変わらないどころか、悪化の一途だ。

そもそも、エナジー消費の激しいフロートシステムを用いて敵陣に奇襲、という案がおかしい。
奇襲ではなく囮の間違いだろう。(あの皇子の言語中枢はきっと壊れてる)
ランスロットはガウェインと違って飛行用の設計などしていない。空を飛ぶ事を前提とした機体ではない。
だからあの機体のエナジーフィラーでは精々片道分でいいところ。使い切ってしまったら帰って来れないじゃないか。
前回も今回も、スザクに死んでこいとしか言わないあの男。

部下を守れなかった?
特派の重要なパイロット?

笑っちゃうね、そんなこと爪の欠片も思っていない癖に!




「変わったな、君は」


資料漁りに飽きたのか、腕を組んでこちらを見ている。
冷めたアメジストの瞳が妙に勘に触る。
なんでこの人がこんなところにいるんだろう、別に見たく無いのに。

唐突に、ああ、そろそろ鐘が鳴るな、と思った。
向かいの学園の授業が終わる。
生真面目なあの子が軍務をこなしにやって来る。
よし決めた。
スザク君が来る前にここから追い出してやろう。
触れるのは愚か、会わしてすらやるもんか。


「言いたいことがあるのだろう」


かつての同僚の擁護をする気なんかさらさら無い。
けれど、きっとこんな男の下で働くより、よっぽど。


「正義の味方の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい」
「そうだろうね」

愉しそうに皇子が笑った。


「だから枢木君には早く殉死してもらいたいのだよ」



有能な人材をくれてやるわけにはいかないからね。






少しばかり、有能すぎる部下



スザクをゼロ、ロイドをスザクにくれてやる訳には行かないので速くスザが殉職すればいい、みたいな兄思考。(最低なのは私です)
ランスロットの事を考えてるといつの間にかスザクのことに移行してるロイドさんとか萌えます。


2007.3.13  わたぐも