ギギナには部屋がある。
自分の部屋だ。ガユスの家に来て与えられた場所だ。

その部屋の中にはいろいろなものが雑多に並んでいる。
最新のゲーム機やプラモデル、チャンバラセットに女の子の着せかえ人形、クラシックなボードゲームにハンモックなどなど。学校の奴らが見たらうらやましがるだろう品揃え。すべてガユスが買ってきたものだ。
昨日買ってきたのは仔猫と仔パンダのぬいぐるみだ。名前もある。猫が『ナカムラさん』でパンダが『新橋』。両方ともガユスがつけた。意味が分からない。

部屋に溢れたたくさんの玩具は全てギギナのものだ。
けれどギギナがそれらを手にとって遊んだことは一度もない。
「使わないしいらないから買ってくるな」とガユスには何度も言っているのだが、その度にあいつは「うんわかった」と言って次の日にまた玩具を買ってくる。
だからギギナは、ガユスは馬鹿だと思っている。


ガユスにも部屋がある。
その部屋がギギナとは対照的に何もない簡素な場所であることをギギナは知っている。ベッドに机、本棚。それだけだ。
だから見た目にとても白の目立つ部屋だった。

ギギナの部屋にもベッドはある。
使うのは一人なのに二段ベッド。だが未だ一度もそこで寝たことがない。いつもリビングのソファで眠っている。

そんな態度をガユスが寂しく思っているのを知っている。顔には出さないだけ。
しかしギギナもある面で寂しく思っているのをガユスは知らない。顔に出さないから。



もぞもぞと部屋の納戸に仕舞った布を引っ張り出す。
「どうしても部屋で寝ないならせめてこれを被りなさい」と半ば呆れた笑いで言ったガユスがくれたタオルケット。ガユスが与えたものでギギナが唯一使っているものだ。
新しく買われたのではなく、昔からここにあったそれは使い古してくたびれた感じが身体に馴染んで丁度良かった。

頭のてっぺんから足の指までをタオルケットですっぽりくるまり、リビングのソファを陣取りテレビを付ける。
液晶画面の中では紺色の分厚い上着にカラフルな太い布切れを首に巻いた男が難しい話をしているだけで面白くない。最も、今は内容なんて全く聞いてないから問題なかった。

ガユスのいない場所はがらんどう。残されたギギナの思考は過去のワンフレーズを巻き戻しては再生の繰り返し。



『いらないんなら、さ。俺にちょーだい?』





ギギナの部屋にはギギナのものがたくさんある。すべてガユスが与えたものだ。
ガユスの部屋にはガユスのものが何もない。それはガユスがいつもギギナをギギナの部屋に入れようとするからだ。


「‥自分のものだと言ったくせに」



だからギギナは、ガユスは馬鹿だと思っている。








【気付いて、独りにしないで】



仔ギギはお留守番中でした。


2007.9.22 わたぐも