シャットダウン







小狼君たちが来た。
きっともうすぐこの国ともお別れ。


やっと あいつらも来たな


戦場から離れると、また周囲の言葉がわからなくなった。
どうやらモコナがいる場所からだいぶ離れているらしい。

君はきっとそんなこと、とっくの昔に知ってたんだろうね。


‥‥おい


音がしたので窓の外から部屋の中へと振り返る。
無愛想な顔した彼がぶっきら棒に酒瓶を差し出していた。
オレはそれを受け取り、瓶のまま口をつける。

この国で与えられたこの部屋は、二人で使うには少し広かった。
でもそう思ったのは四人と一匹で旅する事に慣れていた最初だけ。
今ではすっかり馴染んだこの広さに苦笑する。
きっと、同室にいる彼が大柄だからだ。


黙々と酒瓶を煽る彼は、オレたちの間の机の上並んだ結びには手をつけない。
だからという訳じゃないけれど、オレは酒もそこそこに一つ手に取る。
ぱくりと齧れば中身は焼いた魚だった。


その調子で生魚も食えりゃ世話ねぇんだがな


こっちを見て呟く君の言葉は、昨日と変わらずわからない。
塩味の米に包まれた中身が魚でも、昨日と変わらずとても美味しい。
行儀悪く酒を煽ろうが、怒る人は何処にもいない。


(‥‥君にはいっぱいお世話になったねぇ)


不器用だとばかり思っていたのに、実は吃驚するほど器用だったり。
「なんで俺が」「面倒くせぇ」が口癖の癖に、オレが寝付けない夜は寝た振りしてくれたり。
この結びだってそんなたくさんのお世話の一種。
二人きりで落とされたから知ることが出来た君の一面。
忘れることが出来た オレという存在と背負った罪。


(―――でもこの状況とも もうお別れだよ)


だから開いた心を閉じてしまおう、何も望まなくても済むように。
さぁ戻ろう、蒼い瞳のオレに、望みなど無かった頃の自分に。
そして逃げよう、旅の理由を思い出して。
過去で思い出を塗り潰そう。
無かったことに、無かったことに。

変わったオレを 誰にも知られてはいけないから。


半年振りだ、小僧には剣の上達具合でも見せてもらうか


不敵に笑う君。
聞こえた音に微笑むオレ。






開いた心を さぁ 閉じよう

君の言葉が届く前に。





小狼君たちが来た日の夜の年長二人組。
夜魔ノ国は修羅ノ国近隣ではないとのことなので、きっとまた言葉通じなくなったんだろうなぁ、と妄想。
この半年で開いた心を閉じる準備期間。

管理人の脳内夜魔ノ国物語、起承転結の結の部分でした。(他には起しかアプしてないけどな!)(不親切)



2006.9.23  わたぐも