歯軋りする黒髪赤眼の大男の間合いのきっちり二倍外側で、オレは自分の細い腰に左手を当てて仁王立ち。
次に右手に握った瓶を栓する紙製の丸い蓋を、キュポン、という間抜けな音をさせて弾き飛ばした。
その勢いのまま、瓶の中身の白い液体を、ぐい、と豪快に煽ってやる。ついでに口の周りにこれ見よがしに、即席の白いお髭を生やしてみたり。


「‥‥てめぇ‥!」
「やれるものならヤってごらーん」



ふふん、と鼻を鳴らした自分は只今、過去最高にイイ性格。








愛の翼。その根源は勿論、ラヴ







この度着いたこの国はとてもとても平和なところ。
けれど残念、サクラちゃんの羽根はない。

最近はこんなことばかりだった。
立て続けのハズレの国。その度に、羽根が無ければ用はない、とどこかの国で一悶着あったハンターの様な調子で次元を移動していた。
疲労という程ではないけれど、しかしそろそろゆっくりしたいと言うのが正直な四人と一匹の意見。
そんな訳で休息も兼ねて、しばらくこの国に滞在することになった。

そして。




「演劇、面白かったねー」
「そうか?」


長閑な昼下がりの街中、隣を歩く男に話しかける。
ポリシーなのか、どこの国でも彼は黒基調の服装だ。
そしてオレが話しかける度に、その眉間に皺が寄るのもいつものこと。
加えて今のこの状況、つまり仮にもコイビトという間柄の、しかも男二人が仲良く観劇、トドメにその内容が恋愛物、なんて笑い話にしかならないデート効果で 、その皺を正確に一ミリほど深くしている。


「片割れが早とちりで死んで終わりじゃねぇか。盛り上がりどころが無ぇ」
「そこが一番の見所だと思うんですが」
「自害がか?」


不審げな赤い瞳がオレを見下ろしてくる。
オレはといえば、重い溜息を吐かずにはいられない。
確かに、彼がムードなんて気にする性格じゃないのは百も承知。だけど。


「その反応は三人、特にサクラちゃんオススメの劇にその台詞は失礼じゃないー?」
「ガキ共に無理矢理宿から追い出されただけじゃねぇか。それに饅頭は人じゃねぇだろ」
「モコナはアイドルだもの一緒一緒。それにオレ達にこれは気を使ってくれたんだと思うんだけど」
「頼んでねぇ」
「素直じゃないねぇ、お父さんはー」

「てめぇ、そのネタいつまで引っ張「それじゃあ、良い子で待ってる子ども達に美味しいお土産買って帰りましょー」




例え自分が興味が無くても
魅入ってしまったオレの隣で ずっと起きててくれたのは
とても誠実ですごく不器用な、君の優しさ。




next soon...





一人勝手にガイドブック2発売記念。しかも続きます。
そして短すぎ。


2006.11.2  わたぐも