72.ごめん




いつも貧弱だと罵っていた薄い身体それがこの腕に重く圧し掛かる日が来るなど思いもしておらず つまりそれは不健康で始終青白かった顔の色が鮮やかな赤に塗れる様など想像もしていなかったのと同じ事で だからどこか近くて遠い場所からひゅうひゅうと空気が漏れる音がするのも実感がなくて いつも煩く世話しなく騒いでいた口がゆっくりとくだらぬ言葉を吐くのを他人事のように聞いて死の間際に何を言っているのだと 思った瞬間にそう言えとこの男に教えたのは他の誰でもない自分だったと思い出した途端に現実がとてもクリアになり 腕の中で最期が近付く男がまた吐いた言葉の意味を言語として脳は理解したのに 「…ああ、知っている」と言うのが精一杯で彼の最後の戯言に返してやることはできなかった。








2010.08.25  わたぐも