70.お仕事




「また教師の真似事か」
「真似じゃなくてバッチリ教師なんですよ、あとやりたくてやってるんじゃねぇっての」

これもそれもどれも!どこかの誰かの浪費のせいで泣く泣くなんだ!
午前の仕事で被った塵を気にしたガユスは肋骨の浮いた脇を晒しながらシャツを着替えている。
それをじっと眺めていたギギナが言う。

「行かなければいい」
「‥あぁ?」
「行きたくないのなら行かなければいい」
「あのなぁ、ギギナ君? んなこと言える立場にいないだろうが、おまえも俺も!」

さして高くもないだろう血圧の癖に、眉間に血管が浮き出しそうなほどの怒りを隠さない彼の眉は吊りあがっている。
しかしそれに臆するギギナではない。

「副業が必要なら他を探せば済む」
「ざーんねん、実は一番時間に融通が利くんですよこのバイト!」

なんたって俺の授業は生徒達に楽しい授業として大評判。
そのお陰で、急に授業を頼まれても「その日はちょっと‥」とごねれば給料に色が付くんだ、凄いだろ!
ふふん、と親指を胸にガユスは胸を張る。

「‥‥ならばとっとと教師になれば良い」

ふい、と背を向けられた。
一瞬見えた秀麗な横顔はあからさまに不機嫌で、惜しげもなくむっつりとふくれっ面を晒していた。
それに面食らったのはガユスだ。

「‥‥なに怒ってんの、おまえ」
「怒っていない」
「でも」
「さっさと行け。仕事なんだろう」

それっきり、ギギナは家具磨きの体勢に入ってしまった。

事務所の外に出て、単車に跨る。メットを被る。
溜息が出た。

「‥‥めんどくさいヤツめ」

短縮ダイヤルでギギナへコール。


今夜は徹夜必至の個人授業になるんだろうな、と思った。







ギギナの副業は夜の実技講師。

2010.08.25  わたぐも