53.いたずら
こちらを向いては笑わない。
どこかを向いては愛想で笑う。
こちらを見ては心に積もった罵詈雑言。
どこかを見ては心にも無い美辞麗句。
こちらが話しかければ初め一瞬は息を詰め、そして嬉しそうに振る尾を隠して不機嫌を取り繕う。
戯れと称して迫ってみればあたふたとする内心をひた隠し懸命に丸い牙で噛み付いてくる。
錆びた様な赤い髪とその分素直に澄んだ青い瞳の2色は飾る言葉も
浮かばず、自分の色よりも遥か美しいという形容詞の体現。
「…ガユ、」
「聞こえないッ!聞こえ無いったら聞こえないッ!!」
―――可愛らしいではないか、思わず斬り付けたくなるほどに。
好きな子には悪戯したい恋心。
2006.1.28 わたぐも