46.夕暮れ





今、俺とギギナはとある喫茶店でお茶をしている。


誤解の無いよう先に言っておくが、ここは今回の仕事の標的がよく訪れる店。
そしてこれは張り込み。
だから決してデートなんかじゃない。断じて。

俺の視線は標的を探して周囲を滑る。
ギギナの視線は椅子に釘付け。


標的、未だ現れず。
ギギナ、微動だにせず。



張り込みを開始してから仕事もギギナもずっとこの調子。
店に着いた時、俺の頭上を散歩していた太陽も、今や連続放火 しながら自身も火達磨、地平線へと逃亡中。

あぁ、なんて綺麗な夕日。
今の君ならギギナの美貌に負けず劣らず美しい、みたいな。(もうなんか投げやりだ)

そしてここはオープンカフェ。



「……寒…」



長期戦になるだろうという俺の予想は見事的中。
景品は“風邪”でーす。
わーい、オメデトウ。いらんわ。
…なんか寂しくなってきた。

体内にヒーターが完備されているであろう万年露出狂ならいざ知らず、普通仕様な俺は 不通に風邪を引く。
いや、マジで。

そんな訳でもう今日は切り上げよう。
そうギギナに告げようと視線を紅く燃える太陽からギギナに移す。


そして俺の目に映ったのは、普段の凍える銀の美貌を紅く染め上げた美神。

まるで血を啜ったかのようなその美しさ。

それは夕日の比なんかじゃない。


本当に。

単純に。


―――― 綺麗だ、と。







「見惚れていたのか」


どれくらい、そうしていたのだろう。
いつの間にかギギナがこちらを見ていた。

その紅い瞳に映るのは椅子ではなく、俺。


「自惚れんな」


ずばりそうだったのだが肯定するのは癪なので切って捨てる。
しかしギギナは楽しそうに瞳を細めた。


「私は“夕日に見惚れていたのか”と言ったのだが?」




太陽は依然逃走中。
月がそれを追跡中。


標的、未だ現れず。
ギギナ、微動だにせず。


しかしその瞳に捕われた俺は、夕暮れよりも真っ赤に染まった。




ガユス自爆話。


2005.2.8 わたぐも