29.たまには仲良く  side ギギナ





最近、我が事務所の経理・敗北・雑(以下略)担当は珈琲よりも紅茶にご執心らしい。

その証拠に今冬に入ってからというもの、珈琲を飲んだ覚えが無い。
そしてそうなってからというもの、何か生活に変化を感じる気がしないでもない。
だがそれは恐らく飲み物が変わったという単純なことが原因だろう。
いつだったか私の相棒も「食は文化、生活の一部、愛の結晶!」と半狂乱となって叫びな がら己の女の機嫌を取っていたくらいだ、食の影響とは計り知れない。

しかしその変化に危機感は感じないので、今現在、現状についての文句は無い。




「……どう?」


そして今日も出された紅茶を口に含めば真剣な面持ちのガユスが問い掛けてきた。
意味がわからず数度瞬きをする。
した後でもやはり意味がわからないので聞き返す。


「どう…とは?」

「味」


一瞬、毒でも入れたのかと思いはしたが、しかしそれならば問うてはこないだろう。
今日の紅茶はいつものロイヤルミルクティーではなくストレート。
自分の好きなあの色に少し近い色。

いつもと違う紅茶を出されて「味はどうだ」と聞かれた。

不味い、などとは思わない。
相棒から出されたものについてそんな感想を抱いたことなど無い。
美味い、と。そう言って欲しいのかとも思ったが相手の様子はそん な抽象的な感想を求めているようには見えなかった。

そういえば「美味い」という一言すら言ってやったことが無いな、 と今更ながらに思う。
わざわざ伝える必要性を感じなかったし、面と向かって言うなど気恥ずかしい真 似も矜持が許さなかったからだ。

…言って、欲しいものなのだろうか。
確かに可愛い子(※家具)が生まれたときは私とて賛辞が欲しいと思うが。


もう一度まだ熱いままの紅茶に口をつける。


「…砂糖は?」

「…入れてない。本当のストレート」

「にしては甘みがあるな」


思ったことを呟いた。
それは伝えるべきなのかと迷った言葉ではなくて、本当に 只々思っただけのことだった。本命の感想ではなったのだ。
なのに呟きの一言に反応したガユスが身を乗り出さんばかりの勢いで覗き込んできた。勢い、ではなく 事実机に乗っている。
お陰でその衝撃に揺られた陶杯の中身が少し零れて熱い。


「本当?本当にそう思うっ!?」

「…お、応」


その剣幕に少なからずたじろぎつつも偽りでは無い ので肯定しておく。
果たして先程言いそびれた本命の一言は今使うべきなのか。


「…そっか」



しかしこちらが言うか言わぬかで迷っているうちに、一人満足し たらしいガユスは席に戻り、正ににこにこといった顔で自分の紅茶をすすり始めた。






ギギナもたまには振り回されたらいいの方向で。

side ガユス


06.1.30  わたぐも