29.たまには仲良く  side ガユス





今年の冬は俺の中では紅茶がブーム。

何故かといえば秋に買った『冬も間近!大特集ウィンター☆クッキング』という 料理雑誌の増刊号に紅茶の美味しい淹れ方が掲載されていたから。
珈琲豆よりは確かに高いが、でもその分ギギナにおけるロルカ屋で の使用金額の上限を引き下げたので大丈夫。
そのことについてギギナから文句も頂いていないので、気付いているいないに関わらず大丈夫。

それくらいの節約でウィンター☆クッキングが楽しめるんだから安い安い。




「……どう?」


ギギナが紅茶を口に含んだ頃を見計らって本日の疑問を投げてみた。
するときょとん、とした表情で瞬きする。
ギギナっておやつ食べてるときと家具と触れ合ってるときは可愛 い顔するよなっていつも思う。そう思うのはきっと俺だけじゃないはず。


「どう…とは?」


そうか、“どう”だけじゃちょっと短絡的過ぎだよな。


「味」


いや待て、香りと言うべきだったか?
それならそれで「紅茶の匂い」って言われそうだけど。

今日の紅茶はいつものロイヤルミルクティーじゃなくてストレート。茶葉はアッサムのまま。
本当はいつも通りミルクの方を作ろうと思ったのに牛乳の賞味期限が 切れていて、ついでとばかりに紅茶砂糖も切らしてた。
買いに行くのも面倒なので仕方が無いからストレートで淹れて一口飲ん でみたら「…あ、ほんのり甘い」という感想。
どれくらい甘いかというとほんのり幸せになれそうなくらいの甘さ。

冷えた簡易台所でひとりほっこり温まりながら、ギギナはストレートでも 飲むのだろうか、とふと疑問に思った。



「…砂糖は?」


あー、やっぱり甘いほうが良かったのかな。砂糖無いけど。
たかだか紅茶の一杯に不安と期待が入り混じった妙な感覚。


「…入れてない。本当のストレート」


するとギギナはほんの少しだけ目を瞠って、


「にしては甘みがあるな」


と、陶杯を覗きながら呟いた。


「本当?本当にそう思うっ!?」

「…お、応」


机に手をついて「嘘ではないな?」と迫れば背筋を伸ばしたギギナの返事。
いつもの「悪くない」とかそんな感じの返事が返ってくるのだとばかり思っ てたし、実際そういう返事を求めてたんだけど。だけど。


「…そっか」



思わぬ収穫で上機嫌になった俺はソファに深く腰掛け紅茶を飲む。
うん、ほんのり幸せになれる甘さだ。






ガユスは嬉しくなるとぱっと笑顔になりそうなイメージがあります。

 side ギギナ


06.1.30  わたぐも