「ギギナ、珈琲」
「いらぬ」
その一言で神の慈悲にも劣らない俺の好意は無下にされた。
15.珈琲
事務所に出勤した俺は荷物一式をソファに放り投げ、流し台に向かう。
そして俺の日課である朝の珈琲を淹れる為、置いてあった薬缶に水道水を汲み火をかける。
ガスコンロの青い炎を眺めながら思い出すのは昨日の会話。
ギギナが酒が嫌いなのは知っていた。
だがしかしまさか。
「珈琲も無理か、ドラッケン」
いい歳して酒も珈琲も駄目。
理由は味が嫌いだから。
どこまでお子様味覚なんだお前は。
「…陶杯は…」
棚から陶杯を取り出す。
もちろん一客だけ。
ギギナ用の陶杯が目に入ったが気にしない。
珈琲はあの酸味と苦味が醍醐味だってのに。
まぁ、ギギナの分だけ経費のお茶代が浮くからいいけど。
シュンシュン、と湯が吹く音。
「あ、やべっ」
急いで火を止め、沸騰したての湯を珈琲生成機に注ぐ。
「………」
溜め息をひとつ。
「珈琲くらいブラックで飲めろ、馬鹿」
そう吐き捨て、食器棚とは反対側の棚に手を伸ばす。
まったく、俺も大概甘いよな。
応接室に戻ればクドゥーを終えたギギナが何をする訳でもなくヒルルカに腰掛けて、
ぼうっと外を眺めていた。
ギギナが特に意識せずとも優美に見えてしまうその姿は法律的に規制すべきだ。
「ギギナ、珈琲」
「いらぬ」
奴の視線は昨日も言った、と物語っているが俺は無視して珈琲を置いた。
「いらぬと言っている」
俺はギギナの嫌そうな顔を一瞥、そのまま向かいのソファに座りそしてゆっく
りと顔を上げ、鋼色の瞳を見つめる。
予想だにしなかった俺の行動にギギナが息を呑む。
普段と逆な設定に俺はいささか満足。
やがてギギナは渋々と陶杯を手に取った。
そして一口含んだその表情がきょとん、としたものになったのにも満足。
「………甘過ぎだ」
「お子様にはそんなもんだろ」
安い珈琲と甘い砂糖の香りが広がった。
私はカフェオレが好きです。(聞いてない)
酒が嫌いなら珈琲だって不味いと思ってるはず!という主張から。
うちのガユスはギギナを甘やかす傾向にあるようです。(つまりべた惚れ)
2005.2.27 わたぐも