一歩。
あと一歩踏み出して、貴方の前に立ちたかった
This is not my wish.
短気。
思慮が浅い。
社交辞令も無理。
というか、就任自体その場の勢い。
欠点ならば次から次へと事欠かずに挙げられる、何もかもが駄目駄目な新米魔王陛下。
そのへなちょこであるこの俺は、いつも彼の腕に守られていた。
一度国の外に出たならばそこで見るのはいつも彼の背中ばかり。
そこは何度言っても決して唯一、彼が譲らなかった俺の居場所。
でも、眞魔国のあの日差しの下で笑いかけてくれた彼の表情だけはいつも俺の隣にあった。
守られる対象である俺にとって、あの人の良さそうな笑顔だけは彼と唯一対等だったんだ。
好きだった。
その笑顔がとても。
でもそれがどこか翳りを宿しているとある日気が付いて。
だから彼が心から笑えるように、いつか自分が彼の前に立ち、守れる存在になろうと思った。
大事なものは全部大事なんだから、全て守って何が悪い。
皆で仲良くすれば良いじゃないか。
そしてその為にはやっぱり強さは必要で。
だからきっと、強くなる。
背しか見れず感じるだけのその表情をいつか正面からこの目で見据えられるように。
巣にうずくまる雛鳥が空を羽ばたく親鳥と同じくいずれ飛べると信じるように、俺も強くなれると信じていた。
一歩。
そう、あと一歩だけ。
その些細な距離さえ踏み出せたら、その背を超えてあんたの前に立てるのに。
「……やっぱ足の長さ…リーチの差が大きいよな…」
「何ぶつぶつ言ってるんですか、陛下」
「陛下って言うな、名付け親!」
「失礼、つい癖で」
燃える業火の別れの向こうで凍える白銀の再会。
冷めた日差しの下、違う土の上。
好きだったあの笑顔で笑うあんたの前に、俺はいた。
その意味は、望んだものとはまるで正反対だったけれど。
初小説は短めに。(どんなこだわりですか)
来月発売の宝マはなんだかコンユの匂いがするので今のうちにシリアスに挑戦!の一品でした。
次男に早く帰ってきて欲しい今日この頃です。
2005.8.25 わたぐも