22-25話企画

「怪我人は大人しくしてろ」


あの子の背中を守るのは　俺なのに。

「殺してやる‥殺してやる‥！」


ごめんな、それはどっちも、俺の仕事なんだ。
（あいつは俺が殺すから、君は陽の当たる場所で）

　『兄妹（トリニティ）』は、私が生まれて完成した。

　私には、血の繋がった『きょうだい』がいる。
　肌の色も虹彩も背丈も髪の癖も、全部違う。遺伝子情報をあっちこっち弄繰り回しているから、仕方ないことだった。
　けれど材料はみんな同じものを使っていた。
　そうでなければ、より良いものを造れないからだ。さっきよりも良いのか悪いのか同じなのか、比べられないからだ。『同じ材料』で出来た私たち。
　だから私たちは『血』の繋がった『きょうだい』だった。

　たくさんの『きょうだい』が　いた。

　そう、ヨハン兄が言っていた。私にはもっとたくさんの『兄』や『姉』がいたのだと言っていた。
　けれどそのみんなが『不合格』だったのだと言っていた。
　私よりもはやく『合格』したヨハン兄とミハ兄は、私よりもたくさんの事を知っていた。

　『きょうだい』の話をする時、ヨハン兄の声がいつもより柔らかくなるのを、私は知ってる。
　『きょうだい』の話をしている時、ミハ兄は絶対にその場に来ないのを、私は知ってる。
　『きょうだい』の話の度に、少し懐かしそうなヨハン兄。少し辛そうなミハ兄。

　にぃにぃズが『きょうだい』のみんなを大好きなのを、私は知ってる。
　にぃにぃズが、にぃにぃズが知ってる『きょうだい』のみんなを大好きなのを、私は知ってる。
　でも、私が知ってる『きょうだい』は、今目の前にいるにぃにぃズの二人だけ。
　だから私の記憶の『きょうだい』は、二人のにぃにぃが全部だった。

　だから二人は、私の自慢の兄なのよ。
　短気なところはあるけれど、いっつも私のことを考えてくれてるミハ兄。
　いっつも冷静だけど、たまに本気でぼーっとしてるヨハン兄。
　その二人とも、とても優しくて、とっても頼もしい兄なのよ。
　この世のどんなにぃにぃにだって負けないわ。私のにぃにぃズが一番カッコいい。
　そんな二人と一緒にいて、私、今、とても楽しいの。

　センターで教えられたのは人を殺す術だけだった。
　センターで覚えたのはそれを成したときの快感だけだった。
　でも、にぃにぃズと一緒にいて感じる「楽しい」は、教えられた「快感」と何かが違うのを、私ははっきりと感じてる。でも「それ」を何て言うのかまでは知らない。
　けど、大丈夫。
　だって私の知らないことは全部、にぃにぃズが　ちゃんと知ってるんだから。


　――ねぇ、にぃにぃ。
　世界が変わったら、まず最初に何しよっか？
　ネーナはスイーツをいっぱい食べに行きたいな。
　街に出て綺麗な洋服もいっぱい見たい。
　何か可愛い動物を飼ってみたいかも。
　あ、その時は刹那も連れて見に行くわ。
　‥ちょっと、ミハ兄、そんなものすっごく嫌そうな顔しないでよ！
　ヨハン兄は私の話、ちゃんと聞いてる？

　『トリニティ（私と二人の兄）』は　世界を変えるために　生まれた。
　私達が変えた世界は、きらきらしてるに違いない。

　でもね。
　世界がどんなに変わっても、絶対に変わらない事がひとつあるのを、実はネーナ、知ってるよ。


「ネーナはずっと　にぃにぃズのこと、いちばんに　だいすきだからっ！」


　――だから、

　――エクシアで何をする？
　――戦争の根絶

　ロックオンは、刹那を赦した。
　けれどあれ以来、刹那がロックオンに対して一線を引いているのを、ティエリアは知っている。
　ロックオンは多分、それに気付いていない。見ればわかった。
　最初、ティエリアには刹那の結論が理解できなかった。
　ロックオンは刹那を赦した。刹那は、赦されたのだ。
　なのに何故、刹那は未だ罪悪感を引き擦っているのか？
　「何故」と聞いてみても、刹那の返事は「沈黙」だった。（「無視」ではなかった）
　そしてその理由は実際に、体験して初めて知れたことだった。

　赦されることは、憎まれるよりも　辛い

　奪われることしか知らないロックオンは――ニールは、知っているのだ。
　彼は本当に相手を傷つける方法を知っている。
　それが意識してのものなのかは、ティエリアにはわからない。
　ただ、思う。
　ロックオンも気付いていなければ良い、と。せめて無意識のものであれば良い、と。
　それはロックオンではなく、刹那のために願うことだった。

「おまえもやりたいようにやっていいんだぜ？」

　ならばこの男は本当に、これがあの少年の「やりたいこと」だと思っているのだろうか？
　あの時、あの場所で、言ってしまったから。
　「刹那」は「戦争の根絶」のために「生きる」のだと言ってしまったからではないのか？
　だからもう、少年は後戻りできなくなったのではないのか？
　ただ、刹那自身も、未だそれに気付いていないだけで。

「刹那が心配なんだろ？」

　戦争を根絶したいのは、きっと、本当。
　けれど彼はそのために剣を取る事を、あの少年は未だ望んでいるのだろうか？
　武力による介入、破壊による再生
　それが「CBの刹那・F・セイエイ」として正しい行動であったとしても、
　「あの少年自身（刹那＋ソラン）」が今も望んでいるかは、誰にもわからないじゃないか。
　その程度には人間は、過ちを繰り返し、揺らぎ続ける生き物なのだから。
　（だからあの少年は　決して「０」になれずに　苦悩する）


「貴方は愚かだ」


　もしかしたらいつだって、その優しさが誰も彼もに　停滞することを　赦さない。

ティエリア、泣いてたね
そうだな
刹那も泣いたんだね
そうだな
涙の跡、ついてた
そうだな
‥‥うん
そんでおまえまで泣いてたら、葬式だろうが
‥うん、そうだね
そうだ