マイ キティ 

「そんな顔するくらいなら、飼えばいいのに」


傍観に静観。
その姿勢を貫いていた残りの兄弟だったがいい加減、見るに見兼ねたのだろう。
弟が出て行った玄関を未だ眺めている兄に声が掛かった。

「甘やかしたら駄目だ」
「ぼくが言ってるのはロックオンのことですよ」
「‥‥おれ?」

想定外。
そんな表情が幼く映る長兄に、アレルヤは言及する。

「猫騒動の度に叱られて出て行く刹那を見ては、逆に自分が叱られたみたいに落ち込むあなたを毎度見せられるこっちの身にもなってください」
「彼の言う通りだ。成人男性のしみったれた面など、鬱陶しいことこの上ない」

‥‥毒を吐いたのは一つ下の弟だ。自分ではない。
いや、ストレートに言えばそういう意味なんだけど。

けれどロックオンといえば、ティエリアが吐いた毒に気分を害した様子はない。
パチパチと瞬きしてから、ペタリと己の顔を触れる。そして。

「‥‥おれ、今どんな顔してる?」
「菌類が繁殖しそうな程に鬱陶しい雨季面」
「ちょっと、ティエリア」

それはさすがに、と次男に咎められた三男は鼻を鳴らす。どうも取り合う気は無いらしい。
矛はここに居ない末弟に向かう。

「刹那も愚かだ。捨て猫を拾ってきては毎度自室に匿い「部屋に入るな」と言い出す。馬鹿正直に長兄にだ。次兄に言えば共犯になってくれるだろうに」
「そうなのか、アレルヤ」
「‥‥ティエリア。今、ぼくに妙な疑いが掛かったんだけど」
「けれど実際、頼られたなら君はそうするだろう?」
「今は刹那とロックオンの話だってば」

言いつつも苦笑いするしかなかった。もしそんなことがあれば、自分はきっとそうするからだ。
けれど今話したいのは自分のことじゃない。
話を戻すためにロックオンへと視線を向けた。

「飼えない、ってことはないでしょう?」

このマンションはペット禁止ではない。
家庭事情にしたって昼間は確かに誰もいないが、一日中誰もいないわけじゃない。
第一、この家に最も長く居るのは刹那だ。
自分達が仕事や大学、アルバイトで構ってやれない時間(本人が構って欲しいと思っているかは別)も、彼はずっとここにいる。 すると嫌が応でも猫の世話は刹那になるし、そもそも、あの子が一度引き受けたことを途中で投げ出すとは思わない。
我侭なようでいて、実は責任感が強いのだ。

そして、一番の疑問。
仮に、あの猫を拾ってきたのが刹那じゃなければ。
アレルヤかティエリアだったら。―――ロックオンは「飼えない」とは言わないはずだ。
拾ってくるのが刹那だから、ロックオンは駄目だと言う。
そう、刹那だけ。

ロックオンは刹那に対して、ほとほと甘いのが常だ。
しかし時に厳しく行動に制限をかけることもする。許容の幅は驚くほど広いのに、時に絶対に越えさせまいと柵を打ち込む。極端なのだ、触れ幅が。
きっと刹那も感じている。けれど、どうしてそうなのかまでは、わかっていない。
それは自分達三人の共通の疑問でもあった。

「何故、あんなことを?」

どうして、駄目なのだ。と。
聞きたくても聞けなかったあの子の代わりに聞いてやる。
視線は逸らさない。
もしあの子が問うたとしたら、視線を逸らしはしないからだ。
――だた、向けた視線がかち合うことはなかったけれど。

「‥‥不毛だからだ」

そこで会話は打ち切りだった。

重い沈黙に空気を読んだのか。
助け舟を出したのは意外にもティエリアだった。

「食用でない猫に興味は無い」

更に重い沈黙。
多分、助け舟ではなかった。あと空気も微妙に読めていない。

アレルヤは「刹那がいなくて良かった」と思いながら額に手を当てる。
ロックオンはそんな二人に苦笑しながら答える。

「今から作る。夕食のメニューはオムライスだ」
「何?予定ではカツ丼だった筈だ」
「末弟殿は機嫌を損ねると大変だろ」
「カツ丼」
「怒るなって、ティエリア。量は倍にしてやるから」
「‥わかりました」
「手伝おうか?それなら刹那が帰ってくる頃には出来上がる」
「サンキュ、頼れる次男坊。でも大丈夫だ」




冷蔵庫から卵を取り出そうとして、止めた。
刹那が帰ってくるまでまだ時間がある。卵を巻くのはもう少し後でいい。

ロックオンは出来上がったチキンライスが冷めないように、蓋をした。
マイ キティ
2008.1.9  わたぐも